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「辻さん、これ似合いそう!」
「……そうか?」
辻さんとのショッピングは、率直に言って楽しい!
モデルのようにスタイルの良い辻さんは何を着ても絵になって、まるで服が喜んでいるみたい。
話もよく合って、彼の言葉は全てがインプットになる。
「俺のより、真弓のものが買いたいんだけど」
そう言ってレディースのスペースに移動し、ふんわりとしたフェミニンなシフォンブラウスを私にあててくれる。
「ほら、これとか似合いそう」
くすみピンクの色合いが優しくて、見た瞬間に気に入ってしまった。
だけどいつもの自分ならば選べない服だ。フリルがついているし、可愛すぎるというか。
「もっと可愛らしい感じの人じゃないと……」
例えば、華奢で可憐な笹山さんがぴったりだと思う。
「似合うよ。着てみて」
「そうですか……?」
戸惑っているうちに彼は店員の女性を呼んでくれて、あれよあれよと試着室に。
辻さんが上機嫌で勧めてくれたから、尚更緊張する。
もし似合わなかったら、落胆させるんじゃないかって。
「着られた?」
「はい……」
恐る恐るカーテンを開け、後ろに佇んでいる辻さんと共に鏡を見つめる。
一緒に合わせてくれた黒のタイトスカートが可愛さをピリッと引き締めてくれて、私でも違和感なく着られることに驚いた。
辻さんのコーディネートは女性らしい艶やかさがあるけれど、芯のある大人の雰囲気に溢れていてカッコ良い。
「やっぱり思った通りだ。よく似合ってる」
嬉しそうに満面の笑みを浮かべる辻さんに驚いて、胸に温かいものが込み上げるのを感じた。
「気に入った?」
「……はい。すごく」
決めた。これ、セットで購入しちゃおう。普段の自分だったら選ばないアイテムに、世界が広がったような高揚感を覚える。
「じゃあ、すみません。こちらをお願いします」
店員さんに、至極スマートにカードを差し出した辻さんに目を見開く。
「え!? 私自分で買います!」
「野暮なこと言うなよ。プレゼントする」
「そんな! いただけません!」
焦っているうちにお会計を済ませてしまう辻さんに、圧倒されて立ち尽くす。
「遠慮するな。俺が見たくて勝手に買ったんだから」
そんな甘い台詞にも、どう反応していいかわからなくて。
「申し訳なくて……」
「こういう時は、素直に甘えることがマナーだぞ」
私が気後れしないようにわざとそんなこと。
やっぱり辻さんは素敵な大人だ。
感極まって深々と頭を下げる。
「……ありがとうございます! 大切にします!」
なんだろうこの気持ち。
今まで家族や仕事とか、誰かを大切にすることに夢中になってきたから、自分が大切にされるなんて新鮮で、慣れなくて。
「……すごく綺麗だ」
うっとりと私を見つめてくれる眼差しに、胸が熱くなるのを感じた。
締めつけられて苦しい。
こんな気持ち、生まれて初めて。
「ありがとうございます……これ、このまま着ていてもいいですか?」
辻さんも店員さんも、柔らかく笑って頷いてくれる。
「幸せな気持ちです。この服を着ていると」
私も満面の笑みで微笑むと、辻さんは少し顔を赤らめながら私の髪に触れた。
「素直で可愛い。なんでも捧げたくなる」
傍にいた店員さんが真っ赤になって咳払いするので、私もドギマギしてしまう。
辻さん。
とんでもない人と疑似恋愛を始めてしまったのではないかと、固唾を呑み込んだ。
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