恋するデート

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「なんでそんなに強いんだよ!」 「そっちこそ!」  レースは白熱する。互いに一歩も譲らず、猛スピードで画面の中を駆け巡る。  入れ替わりで一位を奪い合いながら、私達はハンドルを切りアクセルを踏むことに夢中になった。  最終ラウンドは辻さんが優勢。私の心拍数も上がる。  ……このままだと、本当に辻さんとキスを……?  ドクッと心臓が高鳴った瞬間、ゴール付近で突然現れた障害物。  辻さんの車は勢いよくそれに当たりクラッシュし、通り過ぎた私がそのまま一位でゴールを果たした。 「……嘘だろ?」  信じられないといったような表情で呆然と画面を見つめる辻さんに苦笑する。  なんというか、落胆ぶりがすごい。 「私の勝ちですね」  そう誇らしく笑って見せたけれど、心の中に芽生える感情を隠すのに必死だった。  ……私、なんでこんなにがっかりしているの?  自身の感情に驚いて戸惑う。 「真弓は勝負強いな」  ふっと笑う辻さんの唇に目を奪われる。  辻さんとキスしてみたかった。  そんなふうに思うなんて信じられない。   「次、何したい?」  そんな言葉に我に返って、動揺を隠しながら辺りを見渡す。  若い女の子達で賑わっているプリントシール機が目に入り立ち止まった。  学生時代、友達に彼氏とのツーショットを見せてもらったのを、懐かしく思い出す。  今まで興味を持たなかった一つ一つが、突然輝いて見えるなんて思いもしなかった。  今更憧れたって、もう二度と青春は戻らないのに。 「これ、気になるの?」  辻さんは機械の一つを指差して尋ねた。  慌てて首を横に振る。 「いえ。流石にこれは、ちょっと若いかなって」  辻さんは黙って私を見つめた後、勢いよく手を引いた。 「辻さん!?」 「何事も経験だ。歳なんて関係ない。興味を持った時が好機だろ?」  興味を持った時が好機。  辻さんらしい力強い言葉が背中を押してくれる。  この瞬間が、自分の人生で最も輝いていると錯覚させるほど、彼の魅力は圧倒的だった。      
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