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「うわ、中、結構眩しいですね! あ、しゃべった! ポーズとってって!」
初めての経験に、つい興奮気味になってしまう。我に返って隣の辻さんを見上げると、私のことを優しく見守ってくれていた。
なんというか、保護者みたいな眼差しだ。
「辻さん……」
そこで考える。やっぱり辻さんは、恋愛初心者の私のことを親身になって寄り添ってくれているだけで、他意はないんじゃないかって。
それが少し寂しく思う自分にも戸惑う。
「どんなポーズ?」
辻さんが僅かに私の方に身を寄せた。
大人の男性と形容するしかない甘美な香水の匂いがほのかに香って、思わず心臓を掴まれる。
「てっ手でハートを作るんです」
「こう?」
「あっ……」
彼の右手が私の左手に触れる。
指を曲げて弧を描き、それを合わせることでハートが完成した。
自分らしくもない行動に恥ずかしがっているうちに、どんどん撮影は進む。
彼の左腕はそっと私の肩を抱き、益々鼓動を速めた。
……辻さんは有言実行の人だ。
本当に疑似恋愛を経験させてくれる。
このままではどんどん彼にはまってしまいそうで、少しだけ恐怖を覚えた。
「え……?」
ふいに抱き寄せられたと思ったら、至近距離に辻さんの顔が近づく。
抵抗する間もなく右頬にキスされて、言葉を失った。
「本番は次の楽しみにしておくよ」
悪びれもなく微笑まれ、画面の中の自分がみるみるうちに真っ赤になっていく。
「……可愛い」
さらりと髪を指で梳かれて、その色っぽい仕草に心を奪われた。
まだ頬に温かい感触が残っている。
……辻さんの唇、柔らかくて気持ち良かった。
本当のキスをしたら、もっと……。
「大丈夫か!?」
ふにゃふにゃになって膝から崩れ落ちていく私を、辻さんは焦って支えた。
……だめだ私、……本当に辻さんを好きになりかけてる。
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