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────「ふふっ」
遅めの昼食をとる為に訪れた町中華の食堂。
二人掛けのテーブル席で料理を待つ間、早速スマホにダウンロードしたプリントシールの画像を眺め微笑んだ。
「辻さん、盛れてますね。実物の方が素敵ですけど。……あ、これは二人とも目瞑っちゃってる」
「………………」
辻さんは黙って私を見つめている。
そうこうしている間に、注文した餃子とレバニラ炒めが届いた。
「わー! 美味しそう! ニンニクの良い匂い!」
「………………」
早速小皿を並べ料理を取り分け始める私に、未だ辻さんは無言を貫く。
「シェアしましょ! お酒呑みたくなりますねぇ!」
「………………」
「……辻さん?」
もしかしてはしゃぎすぎた?
舞い上がりすぎ?
ちょっと引いた?
お箸を手に固まる私に、ついに辻さんは口を開いた。
「……君は本当に恋愛初心者か?」
「え?」
「可愛すぎるんだが! 楽しすぎるんだが! 心地良すぎるんだが!?」
突然熱弁する辻さんに、思わず顔が綻ぶ。
「私も、すごく楽しいです」
言葉通り本当に楽しくて、へらっとだらしなく笑う。
こんなに楽しいデートなら、何度だって体験したい。
「いただきます」と手を合わせて、餃子を頬張る。
「美味しー!」
あまりの美味しさに悶絶する私に、辻さんは微笑んだ。
「……少しは恋した?」
そんな質問に、餃子を喉に詰まらせそうになって慌ててグラスの烏龍茶を飲んだ。
じっとりとした熱視線に絡めとられ、目が離せない。
……なんて答える?
恋、しましたって?
でも一日であっさり落ちるのって軽すぎると思われない?
それに、……本当に恋したら、私達はどうなるの?
「あの……」
返答に困っていると、辻さんはふっと柔らかく笑った。
「……焦らなくていい。時間はたっぷりある」
まだこの関係を続けられることに安堵している自分がいた。
そしてそんな自分が狡いようにも思う。
「それにしても、君はこんなに魅力的な女性なのに、今までフリーなんて信じられないな」
しれっとした顔でストレートに褒めてくれる辻さんに、ぶほっと噴き出しそうになる。
「とんでもない。今まで全然モテなかったので」
「……ホントか?」
疑惑の目を向ける彼に苦笑する。
「そりゃ、学生時代は少しだけ、気の合う人に交際を誘われたことはありますけど」
「やっぱりあるんじゃないか!」
「なんでそんなにムキになってるんですか」
彼の周りにプンスカという擬音が漂っている感じがして、何だか可愛らしかった。
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