恋するデート

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────「とろみ素材のメンズシャツ、これから間違いなく来る。絶対に在庫切らすなよ。店舗にもプッシュ増やして」 「わかりました!」  今日も今日とて、独自の視点で仕事を回していく辻さん。  しかし先見の明は確かで、彼がプッシュする商品は軒並み大ヒットしている。  仕事に対して誠実でストイックだし、学ぶことも多いのだけど。 「辻さん、資料ブラッシュアップしたので見ていただけますか?」  企画営業部の中でも一番若くアイドル的存在の、笹山(ささやま)さんが辻さんのデスクに近づいた。  顔を赤らめ、可愛らしくパーマボブの髪を耳にかける仕草は女性でも惚れ惚れする。 「見せてみろ」  目を伏せて資料に集中する辻さんに、笹山さんがさり気なく身体を近づけているのが目に入った。  彼も満更でもない様子で、二人は肩を寄せ合う。  どことなく甘美な空気が漂っている気がした。 「……大丈夫だ。良くできてる」  柔らかく微笑む辻さんに、笹山さんはボッと真っ赤になり、周囲の女性達からキャー! と歓声が上がった。  辻光晴。企画営業部課長の33歳。艶やかな黒髪を整髪料で整え、額を出していることでより端整な顔立ちが際立つ。  鋭い眼光とスッキリとした鼻筋、引き締まった口元。  昨夜の王子、唐沢さんを美しいと形容するならば、辻さんは雄々しい色気がある。  なんというか、「俺、良い男だろ? 俺のこと好きなんだろ?」と言わんばかりの自信が醸し出ていて。  そこが物凄く苦手だ。 「辻さん、今夜予定ありますか?」  笹山さんの甘えるような可愛らしい声が耳に届き、思わず身体が固まった。 「ちょっと相談したいことがあって。ご飯でも」 「ああ。今日は……」  辻さんの視線が私を捉え、ギクリと冷や汗が出る。 「すまないが、酒寄と約束してるんだ。また今度な」  そんな発言にざわついた。  私はもう皆の目を見られない。 「……酒寄さんと?」  笹山さんが訝しげに私を見ているので気まずさを覚える。  ……確かに約束はした。  それは、昨日の提案の返事をする為だ。  というか昨日の時点で散々断ったのに、辻さんは「考える時間をやる」と言って聞かなかった。 「酒寄、今日は残業するなよ」  そう微笑まれて、胸が高鳴るどころかゲンナリする一方。  周りが騒然とする中、静かにキーボードを叩き始めた。
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