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そして仕事帰り。
「……で、俺に恋する覚悟はできたか?」
「ゴフッ!」
とんでもなくナルシストな質問に、飲んでいた赤ワインを噴射した。
「………………」
「ごめんなさい!」
恍惚と微笑んでいた辻さんが思いっきりワインまみれになり、慌てておしぼりで彼の顔を拭く。
約束通り、私達は二人でイタリアンバルを訪れていた。
辻さんが案内してくれたお店だ。
暗めの照明がなんだかホッとする居心地の良い空間で、料理やお酒はどれも絶品、彼のお店選びのセンスの良さが際立った。
辻さんは一つ咳払いし、私をじっと見つめた。
「そう身構えなくていい。気軽に恋してくれ」
なんでこの人、断られる選択肢が頭にないんだろう。
もしかして、100%善意で?
そこまでして親身になってくれなくてもいいのに。
「……せっかくのご厚意を無下にしてしまい申し訳ありません。一晩考えたのですが、やはり謹んで辞退させていただきます」
気を悪くさせないように精一杯気をつけながら、丁重に頭を下げる。
彼は私のグラスにワインを注ぎながら言った。
「その判断が賢いとは思えないな。君は今、絶好のチャンスを逃そうとしている。ここまで初恋にぴったりな相手、なかなかいないぞ?」
「………………」
……自分で言うか?
拳を握り締め、つっこみたいのを我慢する。
「顔もよし、性格もよし、仕事もできる。こんなにスペックの良い男はそうそういないと思うんだが」
「は、はぁ……」
まだ酔ってもいないのに目眩がしてきた。
このままでは彼の押しに負けてしまいそうで、別のアプローチを考える。
「……確かに辻さんはとても素敵な男性です」
「え!?」
私が彼の意見にのった途端、耳まで真っ赤にして狼狽える辻さんに面食らう。
自分で自分を褒めるくせに、人に褒められる耐性はないんだろうか。
「だからこそ、ご厚意に甘えるわけにはいきません。きっともう、お相手もいるだろうし」
「いや! いない! いません! フリーです! 奇跡的に!」
かなり必死になる彼に益々困惑して、次の言い訳を考えた。
そして考えた結果、一番核心をつく質問をすることに。
「……じゃあもし私が本当に辻さんに恋したら、どうするんですか? 責任とってくれますか?」
わざととは言え、私らしくもない大胆な発言にちょっと照れながら尋ねると、彼はもっと真っ赤になって片手で顔を覆った。
「……辻さん?」
「いや、なんでもない。上目遣いが、アレで……」
「…………?」
辻さんはワインを一気に飲み干すと、じっとりとした熱っぽい目で私を見つめる。
「……責任はとる」
「辻さん!?」
まさか、そんな返しになるとは。
「だから安心して俺に恋しろ」
真っ直ぐな視線に絡めとられ、言葉を失った。
しばらく黙って見つめ合う。
「………………」
「………………」
「……ごめんなさい。余計プレッシャーで」
全くときめかないことにびっくりした。
「オィィー! 恋しろって!」
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