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二人でアパートに帰宅後、ダイニングキッチンで瑞生は恭介に全てを説明した。二人の間にはグラスに入った麦茶が置かれている。恭介がいれてくれたものだ。最後まで口を挟まずに聞き終わった恭介は、絞り出すように「悪かった」と言った。
「高校卒業前、同棲の許可がもらえたって言うから、てっきり瑞生も両親に付き合ってることを伝えたと思ってたんだ。俺も『瑞生の両親も公認の仲』みたいなこと言っちゃってたと思う。それでうちの両親にも勘違いさせた。迷惑かけた。本当にごめん」
恭介が目を伏せたまま、頭を下げた。恭介のつむじを見たのは、女装せずにデートしてくれとお願いされた日以来で、かなり久しぶりだった。
「僕の方こそごめん。『ふり』とはいえ、付き合っている今をなしにしようなんて、恭介を傷つける行為だった」
「いや。この前は瑞生を責めるようなこと言っちゃったけど、親に隠して付き合ってるカップルも多いと思うし、瑞生は『言わない』という選択をしただけだろ。言ったのは親に対して正直でありたいっていう、ただの俺のエゴだ。でも――」
恭介が麦茶を一口飲んでから、盛大にため息をついた。瑞生は持ち上げようとしていたグラスを落としそうになった。
「でもどうして今まで俺に何も言わなかったんだよ。俺たちの問題だろ? 真っ先に糸川に言うなんて。なんで言ってくれなかったんだ。俺がそんなに信用できないか?」
「信用できないとかじゃないよ! 勢いで家出しちゃったから、言うタイミングがなかっただけで」
突如、恭介が「あー!」と叫びながら自分の髪の毛の中に両手を突っ込んだ。そのままかき回し、セットしていた髪型が崩れた。
「最近、こういうのばっかだよな、俺たち。……いや、俺か。ごめんな、瑞生の気持ちも知らずに責めてばかりで。俺、焦ってるんだと思う」
瑞生はまばたきを繰り返した。恭介は焦りとは無縁だと思っていた。
「焦ってる?」
「びっくりしすぎ」
おうむ返しすると、恭介が苦笑した。
「俺さ、自分のために瑞生を利用してた。瑞生の世話をすることで、自分の問題から目を逸らしてた。瑞生の役に立ってるって思えたら、元カノを忘れるために瑞生を利用してしまったかもしれないっていう罪悪感を減らすことができた。でも、瑞生が俺から離れて、友達を作って、バイトも始めたのを見て、焦った。このままだと俺を必要としてくれなくなっちゃうんじゃないかって」
「そんなわけないよ。恭介の方こそ、友達は多いし、さっさとバイトも見つけてくるし、置いていかれる気がして、ずっと焦ってた。恭介の隣に僕はふさわしくないって、ずっと思ってた」
「そんな風に思ってくれてたんだ。でも、俺はそんなに立派な人間じゃないよ」
恭介は手を組み、右手の親指で左手の親指をこするように動かしながら話した。俯いており、瑞生からは表情が見えなかった。
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