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「瑞生から告白された時、正直揺らいだんだ。俺はそれまで、恋人といえば女の子しか思い浮かべてなかったけど、恋人がほしいだけなら男もありだよなって。でも、そんな気持ちで瑞生と付き合うのは失礼だって分かってた。それに、彼女と別れたばっかだったし、一時的な女性不信みたいなもので男に走ろうとしてるだけなのかなっても心配だった。でも俺は、瑞生と離れることは考えられなかった。瑞生となら、両親みたいな幸せな家庭を築けるかもって思ったんだ。だから、覚悟を決めて実家を出る前に両親に伝えた。『瑞生と付き合ってる。高校を卒業したら瑞生と一緒に住みたい』って」
「怖くなかったの?」
瑞生が尋ねると、恭介は首を横に振った。
「もちろん怖かったよ。ぶるぶる震えてた。いくら親から好きなようにしなさいって言われてても、息子が男と付き合うことを想像できてる親なんて多くないだろうと思ってたから。でも、予想外に両親は落ち着いてた。もちろんびっくりはしてたけど、取り乱しはしなかった。もしかすると、恭介から何か言われた時はこう対処しようって事前に打ち合わせしてたのかもしれない」
「ご両親はなんて?」
「母親は『あなたが幸せならなんでもいい。ただし、自分自身を大切に思えるような恋愛をしなさい』、父親は『お前はそういう道を選んだんだな。大変かもしれないけど頑張れ』って送り出してくれたよ。本当に自分は恵まれてると思う。今になって分かったよ。俺は大切に育ててもらったんだって」
「恭介が羨ましいよ」
恭介の家に遊びに行った時にも、優しそうなご両親だと思っていた。この人たちだったら、「僕はゲイです」と言っても受け入れてもらえるのかもしれないという期待が脳裏をよぎったこともある。瑞生の直感は間違っていなかったのだ。
「そうだな。瑞生の両親みたいに、取り乱してもおかしくなかったと思う。すぐに受け入れてもらえた俺は、すごく恵まれてたよ」
瑞生は手元のグラスを両手で握った。ずっと気になっていたことを、今なら聞けると思った。
「恭介はさ、どうして僕と付き合ってくれてるの?」
目だけを動かして恭介を見ると、恭介は顔を上げて微笑んだ。
「前も言った通り、最初は、瑞生なら大丈夫そうだなっていう軽い考えからだったよ。瑞生のかわいい一面や、かっこいい一面を見るたび、だんだん恋愛対象として好きになった。そもそも友達としても瑞生のこと好きだったしな」
「でも、いくらなんでも寛大すぎない? 僕が急に『女装する』って言った時も受け入れてくれたし」
グラスを握る手に力が入る。瑞生の体温であたたまったグラスは、心なしかぬるりとしていた。恭介は瑞生の手を見ながら話した。
「男である瑞生と付き合うって決めたとはいえ、女性と付き合うことに未練がなかったと言ったら嘘になる。だから、瑞生が女装した時、彼女ができた気分を味わえて最初は嬉しかったよ。でもさ、回数を重ねるごとに『これは違う』と思った。女装した瑞生は、当然だけどいつもの瑞生じゃなくて、だけどたまにいつもの瑞生が顔をのぞかせたりして、苦しかった。俺が好きなのは、男の瑞生なんだ」
恭介が男である自分を好きだと言い切ってくれたことに喜びを感じた。瑞生が告白するまではマジョリティ側として生きてきた恭介が、瑞生への恋愛感情を認めることは大きな決断ではないかと勝手に思う。
恭介にはもう隠し事はしたくないと思った。そうでないとまた些細なことで喧嘩を繰り返し、最終的には別れを選択することになりそうだから。
瑞生はぬるい麦茶を一気にあおった。
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