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 お湯を張った一人用の狭い浴槽に、体育館座りをして横並びになる。瑞生と恭介の手にはそれぞれ棒アイスが握られていた。瑞生がチョコレートで、恭介がストロベリーだ。 「男と二人で風呂に入りながらアイスを食べるなんて、父さんにも母さんにも怒られちゃうな」 「大丈夫、ここには俺しかいない。俺と瑞生さえ黙ってたら、誰にもばれないよ」 「完全犯罪だ」 「共犯者だな、俺ら」  瑞生が笑うと、恭介も目を細めた。 「ほら、早く食べないとアイス溶けるぞ」 「あ」  瑞生が見ている目の前で、茶色の液体が指を伝ってしたたり落ちそうになる。 「言わんこっちゃない」  それを恭介の舌が受け止めた。頭を低くした体勢のまま、目だけを動かして瑞生を見上げる。 「うん、チョコもうまい。瑞生、風呂でアイス食うの下手だな」 「当たり前だろ、初めてなんだから」  照れ隠しに顔を背け、アイスを食べることに集中する。 「くそ、瑞生の『初めて』奪われた」 「どういうこと」 「これからの瑞生の『初めて』は俺が独占したいのに」  恭介はアイスに嫉妬したかのようにむっとした顔を近づけてきた。キスされる、と身構えた時、唇の近く、瑞生がくわえているアイスに歯が立てられる。  口から離したアイスには恭介の歯形がくっきりと残っていた。 「何? 期待した?」  舌なめずりする恭介。瞳が熱を帯びていて、自分に欲情してくれているのを感じる。嬉しい。素直にそう思った。こちらからもやり返してやりたくなる。 「恭介のも、どろどろに溶けてるよ」  瑞生は、恭介が持っているアイスを舌で舐め取った。 「誤解されるような言い方すんなよ」 「誤解って誰に? ここには僕と恭介二人きりだよ。何を誤解した? 何を期待したの? 教えてよ、恭介。全部知りたい」 「開きなおったらずいぶん大胆になったな」  呆れと照れが混じったような表情を向けられる。 「嫌い?」  笑いながら尋ねる。 「いや。むしろ大好き」  照れている恭介がとてもかわいく見える。一八〇センチ近い男をかわいいと思うなんてありえない、と瑞生の頭の中にいる父が言い始めたが、瑞生は脳内で言い返した。「かわいいって人それぞれだよ。父さんはそう思わないのかもしれないけど、僕はそう思うんだ。分からなくてもいいよ。恭介のかわいさは僕だけが知っていれば、それで」 「良かった。僕も、恭介が大好き」  唇を突き出すと、恭介の唇が重ねられた。お互いのアイスと唾液が混じり合って、落ちた。浴槽のお湯に混じって、見えなくなる。まるで最初からお湯の一部だったみたいに。今までの苦労も悩みも、全てが溶け出していくような気がした。
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