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8
昨晩は、恭介のベッドで二人で寝た。恭介は体が大きいので、セミダブルのベッドで寝ているのだ。男二人で寝るにはとても窮屈なのだが、瑞生は恭介に密着できるのが嬉しくて、その胸に顔をうずめた。夜中から雨が降り始めて、瑞生は雨音と恭介に包まれながら眠った。
ふと寒さを感じて目を開けると、隣にいるはずの恭介がいない。顔に風を感じ、頭を上げる。ベランダに繋がる窓が開いていた。小雨が降っているようだ。
ベッドから降りてベランダに近づいてみると、外には、サンダルをつっかけ、スウェット姿のままで手すりに腕を乗せて遠くを見つめる恭介がいた。上の階のベランダのおかげで雨は防げているようだが、寒そうだ。瑞生は部屋の中から呼びかけた。
「おはよ」
恭介が振り返った。
「おー、おはよう」
「恭介が先に起きるなんて、珍しいね」
「まあね」
恭介がはにかむ。瑞生は、恭介に一歩近づいた。
「せっかく早起きしたし、デートする?」
「いいね。マグカップ探しに、雑貨屋とかめぐってみようか。えっと、今からだと昼くらいには出られるか?」
恭介がスマートフォンで時間を確認して答えた。瑞生は一瞬ためらってから、首を横に振った。
「ううん。朝ご飯食べに行こう」
「そんな早く準備できる?」
恭介が目を見開いた。
「いつもは『デートの前は、少なくとも一時間前半に言って』って言うじゃん」
「大丈夫。今日は女装しない」
「……ほんとか?」
恭介がぽかんと口を開けた。
「うん」
「無理してない?」
心配そうに、首を傾げた。瑞生は床を見つめたあと、恭介に視線を戻した。
「してないといったら噓になるけど。でも、今日は頑張ってみたい」
「瑞生ぃ。俺は嬉しいよ」
恭介が走って戻ってきた。ぱしゃぱしゃと下に溜まっていた水が跳ねる。
「ちょっと、汚い!」
後ずさろうとした時にはもう遅くて、恭介に抱きしめられていた。恭介のスウェットの袖が首に当たった時、思わず「冷たっ」という声が出てしまった。
驚いた恭介が瑞生から離れた。瑞生が恭介の手を取り、袖の部分を確かめると、肘から下が、左右どちらも他の場所より濃い色になっていた。きっと手すりに当たっていた雨のせいだろう。
「濡れてんじゃん」
「屋根あると思って油断した。洗濯機回すわ。ついでに瑞生も脱げ」
「分かった。着替えるよ」
恭介が部屋の中に入ってきて、ベランダに通じる窓を閉めた。そして、目の前でスウェットを脱ぎ始めた。恭介の体はさんざん見慣れているというのに、自然光の下で見るにはなんだかまぶしくて、瑞生は思わず目を逸らした。
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