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洗濯が終了し、折りたたみ式の物干し台を瑞生の部屋で広げた。瑞生の部屋の方が日当たりがいいため、洗濯物はこちらに干すことにしているのだ。
「晴れたな」
カーテンを開け放った恭介が、まぶしさに目を細めながら言った。雲一つない快晴。出かけるにはこれ以上ない天気だ。まるで、瑞生の門出を応援してくれているかのようだった。
「デート、行けそう?」
恭介がTシャツのしわを伸ばしてハンガーにかけながら、気づかわしげに瑞生を見る。
「うん」
頷いてみせたものの、心臓がばくばくしていた。男の姿でのデートで何も起こらないだろうか。誰かに指をさされて笑われたりしないだろうか。
瑞生が不安を感じていることに気づいたのか、恭介が笑顔を浮かべた。
「大丈夫。『恭介と一緒なら、なんでもできる気がする』んだろ?」
多少ものまねされた上で昨日の言葉を引用されて、瑞生は「ふへあっ」という変な声を出してしまった。恭介のスウェットを干すふりをして顔の下半分を隠した。不満だとでも言いたげに、恭介が口を尖らせた。
「なんだよその反応。瑞生が自分で言ったんだぞ」
「言ったよ、言ったけどさ。素面の時に聞くと恥ずかしい」
「昨日だって酒は飲んでないだろ」
「そうだけど、雰囲気に酔ってた、というか」
「ふうん。まあ、キスしたあとだったしな」
昨夜、風呂という過剰言葉に反応していじられてしまったことを思い出し、瑞生は顔が瞬時に熱くなった。
「恭介っ! もたもたしてるとモーニング食べられなくなるよ。余計なこと言わないで手動かして」
「はいはい、王子様」
恭介は半笑いだ。
「昨日からの、謎の王子様扱いもやめて」
「はいはい。瑞生様の仰せのままに」
恭介が手際よく二人分の下着を干していく。しばらく女装していないのだから当たり前だが、どちらも男物だ。二人分の下着が並んでいくのを見て、自分は恭介と同棲しているのだという思いが改めて募り、瑞生は下着を干す恭介の手元をしばらく眺めていた。視線に気づいた恭介が不意に微笑んだ。
「そんなに俺がパンツ干してるの面白いか? それとも、いやらしい瑞生ちゃんのことだから、昨日の『続き』でも考えちゃった?」
「ばぁか!」
「瑞生もエロいことばっか考えてないで、干すの手伝ってよ」
「だから、違うってば!」
恭介の腕を両手で殴った。オノマトペで表せば「ぽかすか」となるだろうというくらい、軽いパンチだった。恭介がゲラゲラ笑うことで、自分の行動が余計に幼稚なものに見えた。とても恥ずかしい。だが、恭介にからかわれたことで、デートへの緊張が少しだけ薄れたように思った。
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