奇妙なる夏の夜

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僕は、あの日のことを今でも忘れない。いや、正確に言うと、忘れようとしても忘れられないのだ。あの夏の夜、京都の街を歩いていた僕は、全く予期せぬ出来事に巻き込まれることになった。 その日は、酷く暑かった。日中のうだるような熱気が、夜になっても一向に収まらない。僕は、用事を済ませるために出かけたはずだったが、気が付けば鴨川沿いを一人で歩いていた。日々の忙しさから解放され、ただぼんやりと涼を求めて歩いていたのだ。 「もう、こんな暑い日に限って涼しい場所が見つからんのだよ」 僕は自分に言い聞かせるようにぼやいた。その時、ふと目の前に奇妙な店が現れた。店の看板には『千年涼亭(せんねんりょうてい)』と書かれており、その周囲には不思議な青白い光が漂っていた。まるで、幽霊がひしめき合っているかのような光景だった。 「なんだ、これは…?」 恐る恐る店の中に足を踏み入れると、そこにはひんやりとした風が流れていた。まるで千年もの時を経て、冷却され続けたかのような空間だった。店内は不思議と静かで、そこにいる客もまばらだ。
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