第12話 命を奪うということ

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第12話 命を奪うということ

 本来、盗賊を狩ればその身に着けている物は狩った者の物となる。とはいえ、それは後でいいだろう。  今はアリアが戦っているのだ。  アリアの方に目を向けると、アリアと最後の一人となった盗賊は中々良い勝負をしていた。  正直、基礎的な能力はアリアの方が上だ。盗賊なんてのは鍛錬なんてしてないだろうし、アリアは次の勇者になるために、かなり厳しい鍛錬を積んできたからな。  とはいえ、盗賊だって莫大な戦闘経験がある。  それは弱い、武器も持っていないような相手を集団で袋叩きにしたような戦闘経験かもしれないが、それでも、命懸けの実践ほど、経験値が上がることはないと、俺は思っている。  それに、アリアの剣筋は読みやすい。基本に沿っているだけで、搦め手やフェイクを入れていないのだから当然だ。  とはいえ、この期間中にそこまで教えてやれなかった俺の責任でもある。あまり詰め込み過ぎてもよくないと思って、ある程度は余裕のあるメニューにしておいた。それでも、アリアにはかなり苦しかったようだが。  しょうがない。ここで死んでも困るし、ちょっと加勢しよう。  俺はその辺りに転がっている手ごろな石を握り、指で弾く。 「《射出》」  もちろん、人族の腕力だけで弾いた石ころの威力なんてたかが知れているので、ちゃんと魔法も併用する。  この《射出》の魔法は魔力で手投げ武器などの威力を上げる魔法だ。これ単体では意味がないため、覚える魔法使いは少ないが、魔力消費が少ないし、搦め手が多い俺には必要だと思って練習した。  弓矢より速い速度で飛んで行った石弾は、狙い通りアリアを避けて盗賊の左目に命中した。  アリアもそれを好機と見たか、盗賊の剣に自身の剣で捻りを加え、弾き飛ばす。  地面に膝を着いた盗賊の首筋に剣を当てる。これで勝負は決まった……と、アリアは思っているのだろう。 「師匠、縄か何かを頂けますか?」 「何故だ?」 「え? この盗賊を衛兵の詰め所まで連行するために――」 「そんなことをする必要はない。ここで殺していけ」  俺がそんなことを言うとは思っていなかったのか、アリアが戸惑う。 「し、しかし……魔物ならともかく、人を殺すのは……」  アリアは覚悟が決まらない様子だ。 「魔物と言っても、ゴブリンやオーガ、オークみたいに、知性を持った魔物だっている。そういう奴らは当たり前に言葉を話し、子供を育て、家族を作る。人間と何が違う?」 「それは、そうかもしれませんが……」 「それに、勇者の敵は魔物だけじゃない。こういう盗賊や犯罪者とだって敵対し、対処しなければならない場合が来るかもしれない。そのの実践に俺はいないだろう。一歩間違えば自分の、仲間の命を危険に晒す。一瞬の迷いが、隙が致命傷に繋がる」 「何をゴチャゴチャ言ってやが――ウガアッ⁉」  盗賊が懐に隠し持っていたナイフでアリアに向かってきたが、そのナイフは俺が叩き落とし、手の甲を剣で刺して地面に縫い留める。もう片方の手は俺が片足で踏んで固定する。  もうこれで、お互いに逃げ場はない。 「やれ」  アリアは震える剣の切っ先で盗賊の喉元を突いた。 「ウゴッガハッ‼」  盗賊はしばらく何か呻いていたが、やがてこと切れた。  アリアは自分が殺した盗賊の死体を見て震えていた。おそらく、今日のことはトラウマとなり、一生脳裏りから消えることはないだろう。  だが、それでいい。  魔物からしたら、勇者なんてのはただの殺戮者と変わらない。  命を奪うということの重みを知っておいた方が、後々為になる。
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