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第17話 解呪とハーブティー
俺の右腕の解呪をするために、礼拝堂へとやってきた。
魔法の強い弱いは魔力量✕イメージで決まる。
例えば俺が《火球》を出すときは、火種が自分の掌の中で大きくなるイメージでやっている。
この魔法を使うときのイメージは個人差がある為、自分のイメージを確かな物にするのが魔法上達のコツだ。
だが、聖職者の魔法は、大抵が神に関するイメージだ。
故により神を感じられる場所に行けば、魔法の威力も増すのだ。
「《解呪》」
神聖な光が右腕を覆う。気持ちはいいが、呪いに効いている様子はなかった。
魔力を多く失った反動か、解呪に失敗したショックか、エレンは足をふらつかせる。
「そんな《解呪》でも良くならないなんて……」
俺はふらつくエレンの腰を抱き寄せ、支える。
「気にするな。今の生活の方が俺には合っているよ」
そのまま右腕を隠す包帯を元に戻し、エレンの部屋に帰ろうとすると、エレンに袖を掴まれた。
「このままじゃ眠れないでしょう? せっかくだし、ハーブティーでも淹れましょうか」
「そうだな。じゃあ頼む」
エレンには悪いが、このままじゃ眠れそうにない。それに、エレンのハーブティーは美味い。魔王討伐の旅の時はよく作ってくれた。
エレンのハーブティーを味わっていると、エレンはモジモジとし始めた。トイレかと思ったが、勿論そんなことは口にしない。
ハーブティーを飲み干し、席を立つ。
「じゃあ、俺はそろそろ寝るよ」
これでトイレに行きやすくなっただろう。
「ねえ!」
エレンが立ち上がり、俺の袖を握って引き止める。
「もう、勇者に戻る気はないの?」
モジモジとしていたのはそれが理由か。
「ないよ。今更俺が勇者に戻っても、誰も喜ばない」
「私は喜ぶわ! 皆んなだって、魔王を倒したから勇者はもう必要ないなんて思ってない! きっと受け入れてくれる!!」
勇者は魔王を倒す存在だ。魔王のいない今、その称号に意味はない。
「それに、あなたはまだ若いじゃない! 平和のために人生を捧げたあなたが……こんな生活してたら、誰も報われない!!」
「俺は富や名声のために勇者になったわけじゃない。それに、王様にはたっぷり報酬を貰ったし、今の隠居暮らしも悪くない」
言いたいことを全て言い切った俺は、エレンの手を優しく解き、借りているエレンの部屋に向かう。
後ろの部屋から聞こえる、エレンの啜り泣く声に目を背けながら。
勇者の立場を退く事に後悔はない。これは嘘偽りのない本音だ。
一つだけ後悔することがあるとすれば、それは、もう一度皆と旅がしたい。
魔王討伐の旅は長く、辛いこともたくさんあったが、それ以上に楽しかった。
みんなで馬鹿やって、騒いで。怒られた時ですら、楽しかった。
でも、あの頃にはもう、戻れない。
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