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3.待ち合わせ
翌朝の八時五十分、白羽根橋駅の北口に着いた。この駅に“東口改札”はない。
昨夜母に訊くと、「二十年くらい前までは東口と西口の改札口が別々にあったけれど、そのあと駅の開発で“北口改札”に統合された」と教えてくれた。
インターネットを使えば改札口なんてすぐに調べられそうなものだけど。知らなかったということは、二十年前までの知識しかないと思ってもいいのだろうか。
あの声の人が本当に魔法使いなのか、ただの奇妙な人なのか、まだ判断がつかない。
どんな格好をするかも、ずいぶん悩んだ。
あんまり気合いを入れて、変な人だったらとても嫌だ。スカートはやめた。でももしも本当に魔法使いだったらと思うと、子どもっぽく見られるのもなんだか胸のうちがもやもやした。
結局、淡いセージグリーンの落ち着いた六分袖ブラウスに、濃紺色の細身のデニムを下に合わせた。まだ肩にまで届かない長さの黒髪は、頬にかからないようにピンで留めた。
少し離れたところから北口改札機の内側にそれとなく目をやると、水色のシャツの人は一人しかいなかった。邪魔にならないよう壁際で姿勢よく立っていた。
見た目はごく普通の少年だった。わたしと同年代くらいの。
短い黒髪。えり付きの水色の半袖シャツに、ベージュ色を下に合わせている。
ただ、左腕に腕章を付けていることだけが、周囲から浮いていた。薄青色の地の布に、緑がかった青、ターコイズブルーの文字で「四十四代目」とあった。
間違えようもなかった。
身構えていた自分が急につまらない存在に思えた。
足早に自動改札機を通り抜けて、少年の前に立つ。
「魔法使いの人ですか?」
「そうです」
電話で聞いた声と同じ抑揚だった。
「どこで話します?」
「鉄道の中で」
そう言って少年は笑顔を見せた。
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