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第壱夜 邂逅
ピチョン…
缶ビールから水滴が零れ落ちる。
私は、最後の一缶がなくなったのを見て、
「はぁ…また買いに行くのか…」
と、悪態をついた。
時計を見ると、針は午前2時を指していた。
やわら立ち上がり、最低限の服を身にまとう。
財布の中に小銭があることを確認し、玄関のドアをできるだけ音を出さないように開けた。
ふと空を見上げると、曇天で、雲が月と星を覆い隠していた。
「外に出るのは何ヶ月ぶりかな…」
天気などは気にせず、久々の外の空気を満喫しながら、近くの自販機を目指し歩き出す。
近くといっても、徒歩10分くらいはあるので、少し歩かなければならない。
暗闇を照らすには頼りない街灯が、ぼんやりと私の顔に人工光を照射していた。
流石にこの時間帯は私以外誰もいなかったので、誰ともすれ違うことなく自販機までたどり着いた。
ピッ…ピッ…ガコン。
無音の空間に電子音だけが響いた。
購入した缶ビール10缶を持参のエコバッグに積める。
少し重くなったエコバッグを肩にかけながら、帰路に向かって歩き出した。
すると、自分の足元に影ができ始めた。
上に向かって首を90°曲げる。
家を出たときとは打って変わって、いつの間にか、星空と満月が私を淡く照らしていた。
道が見えやすくなり、安心して帰れると思っていた、その時だった。
背後に、人のような、人ではないような不思議な気配を感じた。
普段人の気配に敏感な私は、すぐに背後に振り返った。
すると、そこには…
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