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「中に案内してやろう。玄関は裏口にある。」
裏口まで歩いている途中、ふと疑問が浮かんだ。
「神社ってことは、神主とかはいないの?」
「……いない。疾うの昔に死んでもうた。今は儂独りでずっとここにいる。まぁ、この件に関しては契約の内容にも関わってくる。ささ、入れ入れ。」
夜の神はそう言うと、裏口の扉を開けて中に入るよう催促した。
「お邪魔します…」
中は意外と広く、藺草の香りがする畳が敷いてある和室だった。
奧に襖もあり、まだまだスペースがありそうだ。
なんだか、実家のような安心感というか、ここにいると心地良い感覚に包まれる感じがした。
「あぁ…」
足の疲れが癒されていく。
ずっとここにいてもいいかも…
そう思っていると、
「では、早速契約について話そう。」
そうだった。ここには、夜の神との従属契約とやらの内容を聞くために来たのだった。
ビールが入っているエコバッグを部屋の端に置き、
夜の神が用意してくれた座布団に座る。
「そもそも、何故契約を結ぶ必要があるとか言ってなかったのう。まずはそれについて話そう。
この神社に神主はおらん。つまり、管理する者がおらんのじゃ。神社を管理する者がおらんと、神社はどんどん廃れていく。
もともと、神主と儂が従属契約を結ぶことで、神主が儂と神社のために日々精進し、それの対価として儂が様々な力を授ける。夜に魅入られた者にとって必要なものや、便利なもの。信者の信仰が、儂の力となり、それを夜の力として信者に与えるのじゃ。
じゃが、無闇矢鱈に信者を増やすわけではない。本当に儂を必要とするものだけに夜の力を授けるのじゃ。」
「じゃあ、私は?別にあなたを必要としてはいなかったけど。」
「お主は特別じゃ。じゃが、ずっとあのままの生活を続けていると、そのうち夜に魅入られる。実際、今のお主はほぼ魅入られかけておるぞ?だから、儂が助けてやったというわけじゃ。それに、
お主、人生そのものに退屈しておるじゃろ?儂には分かるぞ。ずっと今のままか、儂と契約を結ぶか、迷っておるじゃろう?」
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