第弐夜 契約

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「中に案内してやろう。玄関は裏口にある。」 裏口まで歩いている途中、ふと疑問が浮かんだ。 「神社ってことは、神主とかはいないの?」 「……いない。疾うの昔に死んでもうた。今は儂独りでずっとここにいる。まぁ、この件に関しては契約の内容にも関わってくる。ささ、入れ入れ。」 夜の神はそう言うと、裏口の扉を開けて中に入るよう催促した。 「お邪魔します…」 中は意外と広く、藺草の香りがする畳が敷いてある和室だった。 奧に襖もあり、まだまだスペースがありそうだ。 なんだか、実家のような安心感というか、ここにいると心地良い感覚に包まれる感じがした。 「あぁ…」 足の疲れが癒されていく。 ずっとここにいてもいいかも… そう思っていると、 「では、早速契約について話そう。」 そうだった。ここには、夜の神との従属契約とやらの内容を聞くために来たのだった。 ビールが入っているエコバッグを部屋の端に置き、 夜の神が用意してくれた座布団に座る。 「そもそも、何故契約を結ぶ必要があるとか言ってなかったのう。まずはそれについて話そう。 この神社に神主はおらん。つまり、管理する者がおらんのじゃ。神社を管理する者がおらんと、神社はどんどん廃れていく。 もともと、神主と儂が従属契約を結ぶことで、神主が儂と神社のために日々精進し、それの対価として儂が様々な力を授ける。夜に魅入られた者にとって必要なものや、便利なもの。信者の信仰が、儂の力となり、それを夜の力として信者に与えるのじゃ。 じゃが、無闇矢鱈に信者を増やすわけではない。本当に儂を必要とするものだけに夜の力を授けるのじゃ。」 「じゃあ、私は?別にあなたを必要としてはいなかったけど。」 「お主は特別じゃ。じゃが、ずっとあのままの生活を続けていると、そのうち夜に魅入られる。実際、今のお主はほぼ魅入られかけておるぞ?だから、儂が助けてやったというわけじゃ。それに、 お主、人生そのものに退屈しておるじゃろ?儂には分かるぞ。ずっと今のままか、儂と契約を結ぶか、迷っておるじゃろう?」
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