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その日の翌日からシュラウドは外を見るのをやめました。
シュラウドは朝食の後、決まった木の傍に腰を下ろして、本を読んだり、居眠りをしたりするようになったのです。
彼はシュラウドが人として生きる希望を思い出した事を喜んでいました。
シュラウドが持つ本は一度も捲られる事はありません。
それに、居眠りしたはずの瞼がピクピクと震えているのを彼は笑いを堪えた表情で見ていました。
「シュラ!」
待ち人の声にシュラウドは顔を上げ、素早く身支度を整えてから、今起きたという演技をして組んでいた手を広げました。
顔に被せるようにして置かれていた書物は持ち主に忘れられて、地面を転がって砂まみれになっているのを彼は拾い上げて綺麗にすると、小脇に抱えました。
彼が可哀そうな書物に気を取られている間に、彼女はもうシュラウドの腕の中に飛び込んだ後でした。
シュラウドの腹に飛びついて歌うようにくふくふと、彼女は笑います。
「どうした?」
彼女と出会ってから人としての生活を取り戻したシュラウドの声は、枯葉から青葉へと青々としたテノールに変わっていました。
変声期を終えた青年の声は、優しい色をまとった伸びやかな音でした。
「だって、シュラってばおひさまの香りがするんだもの」
そう言って彼女は、すぅと、シュラウドの腹を吸いました。
「それならスティは、はちみつの香りだ」
シュラウドは彼女の柔らかくウェーブした髪をそっと撫でながら、ぎこちない仕草で彼女の髪を一房手に取ると、ひとつ口付けを落としました。
「やだわ!朝食のハチミツの匂いじゃない!」
シュラウドを汚さないようにと身体を離そうとした彼女を抱き込んでシュラウドは声を出して笑いました。
そんな2人の穏やかな姿を、彼は見ていました。
眩しくて見ていることしか出来なかったのです。
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