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わぁっ、と声を上げる貴族達の声が広い城内に響きました。
王太子に一方的な婚約破棄を告げられてから立ちすくんだまま茫然と元婚約者とその恋人であろう二人を見上げる彼女は1人だけ状況がわからず立ちすくんで迷子のような顔をしていました。
貴族達を味方につける振舞いをした王太子の行動により、彼女は悪者に仕立て上げられ、矢面に立たされることになったのです。
常日頃から刺激を求める貴族達にとって、今のこの状況は願ってもなかった観劇の始まりを知らせるものと変わりませんでした。
誰かが面白い事をしてほしい――それも王族が中心となって起こす騒動に誰しもが興味津々で一音も漏らすまいと聞き耳を立てて注目していました。
盛り上がる城内と違って彼にはこの観劇は、心底くだらないものに見えていました。
シュラウドが大切に守ってきた彼女が馬鹿にされるその時を彼は見ている事しか出来ませんでした。
王太子は満足げに周りを見渡してから男爵令嬢に目を向けました。
自分が予想していた表情と180度違うシヴァの悲しそうな顔に、王太子は大げさなほど驚きました。
「シヴァ……何をそんなに悲しそうな顔をしているんだ?」
まさか自分との婚約が嫌だったのではないかと王太子は内心で肝を冷やしました。
男爵令嬢が望んだままに行動したのに、どうして浮かない顔をしているのか王太子には想像もつかない様子を彼は静かに見ていました。
そんな王太子の心も知らず、男爵令嬢は慰めてくれる王太子に縋ったまま、鼻にかかったような甘い声を出しました。
「私が王太子と婚約してしまったからヘスティア様がお可哀想で……だってずっと王太子と私を見なくてはいけないんですもの」
涙を浮かべる男爵令嬢の演技がかった白々しい言葉に、何故お前が泣くのかと、彼は思いました。
突然婚約破棄を言い渡された彼女が何も言えない事をいい事に、男爵令嬢令嬢が調子づいている事は、誰の目にも明らかでした。
しかし、冷静な判断を下せるものはほんの一握りしか残されていないのが現状でした。
「シヴァ嬢は素晴らしい令嬢だ!皆もそう思うだろう!」
王太子はそんな男爵令嬢を慈悲深い素晴らしい令嬢だと褒めちぎり、いい事を思いついたという顔で嫌な笑みを浮かべました。
そして、王太子は恐ろしい事を口にしたのです。
「慈悲深い私の婚約者の願いを叶えるべく、王家の名の下にスティア公爵令嬢の公爵籍を剥奪し、辺境の地で生涯過ごす事を命ずる!」
王太子の言葉は、今この時をもって彼女を罪人とすると宣言したものと同じものでした。
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