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シュラウドと彼が立ち止まっているとトタトタ、と小鳥が一生懸命歩いているような足跡が聞こえたのはすぐの事でした。
「あっ!」
鈴を転がしたような声が聞こえて彼はシュラウドと共に声の方に目を向けました。
座り込んだままのシュラウドはハンカチを持ったままです。
その彼の手の中にある物をみつけて彼女は恐る恐る近づいてきました。
3人の間に、短いような長いような何とも言えない空気を纏った無言の時間が流れました。
「あの…」
意を決したように、彼女はシュラウドに声をかけました。
しゃがんだシュラウドと彼女の目線はそう変わらない高さで、彼は2人の目が合ったその瞬間を見つめていました。
「それ、わたしのなの。拾ってくれたの、お兄ちゃん?」
シュラウドはじっと彼女を見るだけで、頷く事も何かを言う事もありませんでした。
長い沈黙の末、シュラウドの代わりに彼は口を開こうとしてから口を閉ざすことにしました。
シュラウドが静かに動き出したのを目端でとらえたからでした。
「上手だ」
シュラウドが、しゃがれた声で刺繍の跡をそっと撫でながら告げました。
歩くのと同じようにぎこちない動きで差しだされたハンカチを、彼女は目を丸くして暫く見ていると、突然泣き出すかのように顔を歪めて声を上げました。
「うそよ!ぜんぜんだめよ!いつもおこられるの、へたっぴなのよ!」
なぜ褒めたのに怒られているのか、シュラウドはハンカチを持ったまま長い間呆気に取られていました。
言われた言葉をゆっくりと飲み込んでから、シュラウドは眉を少し顰めただけの変化の少ない顔をして彼をちらっと見上げました。
「助けてほしい」と、言葉にしなくても切実に訴えてくるシュラウドの表情に彼は吹き出して声を出して笑いました。
シュラウドの表情が久しぶりに動かしたせいか、福笑いの様におかしかった事もありますが、それ以上に彼は嬉しかったのです。
彼が何かに興味を示したのも、自分を頼ってくれたことも。
彼にとってシュラウドはかけがえのない存在になっていたのです。
普段の姿から想像出来ないほど大きな彼の笑い声は、静かな庭に良く響き渡りました。
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