第七章 怪しい隼人院長

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「料理の感想はないのか? 味や見た目、誰かなにか言っても良いだろう」 「院長と阿加ちゃんの話が強烈で、料理がかすんでました。さぁせん」 「さぁせん? 謝るのにさぁせんはないだろう」 「そうっすよね」 「それに俺の作った料理がかすんでいるだと?」 「さぁせん、僕の目が疲れてかすんでるということで」  軽い、信じられないくらいに軽い。本当に朝輝先生って得な性格。この軽さか許されるんだから大したもんだわ。 「えっと料理の感想っすよね」  ついでみたいな言い方が軽いなぁ。  朝輝先生が口火を切って、その後に俊介先生や大樋さんや私が口々に感想を述べ合った。  感想を聞く隼人院長の顔が、どうだって自慢げで誇らしげな顔で可愛らしく見える。 「隼人院長チームに来られて、今はとっても嬉しいです。こんなに素敵なイブも過ごせて幸せです、ありがとうございます」  凄く楽しくて、こんなにチームワークが良い隼人院長チームに入れて良かったと心から思う。 「最初のころ、敬太先生がおっしゃっていた通りなんです。ここに来られて良かったです」  初めて異動を知った日の私に伝えたい。  なにもかも乗り越えられるから、そんなに怯えなくても大丈夫よ、必ず道はひらけるよって。  そのとき隼人院長のPHSの着信音が鳴り響いた。 「六匹の猫が受傷。テーブルクロスに爪が引っかかり、出来たての寄せ鍋が落ちて来た。中身をかぶった逃げ遅れの熱傷ニ、パニックによる裂傷ニと骨折ニ。以上」    受付スタッフからの連絡で、隼人院長の対応を聞きながら輸液を確認したり各自が動き出す。  冬季には熱傷が他の季節の2倍近くになる。熱傷の救急は今日に限ったことじゃない。  ただでさえ土鍋は冷めなくてグツグツに煮えたぎって熱いのに、重いし割れるしびっくりしただろうな。  応急処置として保冷剤で冷やしていることを確認した隼人院長が、再び口を開いた。  「飼い主には冷やすのは五分以内で充分だと指示を出したそうだ。それ以上は低体温のリスクがあることも伝えてくれた」  「冷やすか冷やさないかで熱傷の深度が段違いですからね」 「それと痛がっているのが救いだ。感覚が麻痺するまで熱傷が深いと厄介だった。とはいえ予断を許さない状況だ」  隼人院長と俊介先生が口を動かしつつ、今出来うる限りの準備をしている。 「飼い主は三十代のご夫妻で旦那さんが車を運転して来たから落ち着いていると願う。しっかりと状況を説明してくれれば良いが。とにかくやり遂げよう」  みんなの士気が上がる。 「僕、塔馬(敬太)先生と矢神(葉夏)先生に連絡します」 「よろしく頼む」  朝輝先生が電話をしている間に大樋さんは麻酔科と手術科に問い合わせている。  隼人院長が指示を出す。 「とりあえず熱傷が優先順位一で俺と人見(俊介先生)波島(朝輝先生)。裂傷は塔馬と矢神に任せよう。骨折で死ぬことはない、後回しでかまわない」
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