第一章 エリート精鋭集団に放り込まれて

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「うちのチーム(家族)の妹よ」 「だよな、顔にも美人の葉夏の要素がなにひとつ入ってない」  辛辣な人だな。 「もし、この子に手なんか出したら、あんたの出張中に家に忍び込んで、国際電話で世界中の天気予報にかけたまま帰ってやるからね」 「矢神先生って、地味ながらダメージ大きい復讐よく思い付きますね。僕、彼氏じゃなくて良かった」  朝輝先生、私も同感。 「なあ、葉夏、さっきから小言うるせぇよ」 「今日も合コン? よくそう堂々と話せるわね。また私にフラレたいの?」 「矢神先生はガミガミ口うるさいんすよ。塔馬先生も食い散らかさないで食べ方上品っすよ、僕みたいに。ね?」  男同士で守り合っているみたい。 「ならなんでヤバイって逃げるように走って来たのよ? 白黒はっきりさせてよ、ほら早く説明してみなさいよ」   詰め寄る葉夏先生のシューズの音が摩擦で火を吹いて怒っているみたいに響き渡る。  このカップルは、今までどれだけの修羅場をくぐり抜けてきたのか。 「葉夏って怒った顔も美人だよな、もう怒るのよしてくれよ。葉夏を見るたびに、また恋しちゃうから」  うわあ、ゾワゾワする。よく歯が浮くような台詞が言える。 「騙されると思うなよ? 今度悪さしたら首根っこに鈴つけるからね」  葉夏先生の言葉に反応した朝輝先生の言葉。 「塔馬先生、そのときは僕が首輪に噛み付いて食いちぎりますから」だって。  遊び人の男の人って自分が犠牲になっても先輩を守るんだ。  敬太先生に囁きながら朝輝先生がつないだ手を軽く握ってきた。 「大丈夫?」  私にしか聞こえないような囁き声。 「なにがですか?」 「この状況」  走りながら話すのがしんどくても頷いた。  こんな遊び人の軽い人にまで気を遣って、自分の気持ちを隠してしまう。 「囁き声って二人だけの秘密みたいでドキドキする」  可愛い顔に似合わない朝輝先生のハスキーボイスは、囁かれると首筋がスススゥとなる。 「俺にとってはスポーツだ。や、生きるために必要不可欠なもんだ、女抱くのはやめらんねぇ」 「敬太! あんた本気で私に殺されたいの!」  真っ白な歯を見せながらドクターコートをなびかせ走り抜ける敬太先生には、葉夏先生の言葉が入ってこない様子。  まるで、二人のやり取りを煽るように廊下のあちらこちらから次々と声がかかる。   自分に自信があるのか、女医も看護師も受付も華やかに咲き誇る美女ばかり。  ほかのライバルに負けないようにアピールしている感じに見えるのは気のせいじゃない。 「ほらな、見てみろ、女が放っとけないんだよ。でもな聞けよ、本命は葉夏お前だけだよ信じろ」  見たまんまのチャラい先生なんだ、敬太先生。
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