第一章 エリート精鋭集団に放り込まれて

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 明らかに私とは違う人種である切れ者腕利きに見える獣医。  それに、経験豊富なベテランのやり手に見える看護師が今回の異動の話をしている。  四人とも口を揃えて院長チームに異動したいって。  その気持ちが私には到底理解できない。  テーブルをはさんで目の前にいるユリちゃんに視線を馳せると、お気楽なもんでハンバーグを美味しそうに頬張っている。  おっとりのんびり屋で子どものころからおとなしいと言われてきた私と、明るく人懐こいユリちゃん。  外見も性格も真逆な二人がクリーレンで同期として一年も仲良くいられるなんて、よほど気が合うんだなってしみじみ思う。 「あああ、トロいな。いつもそうやって人の顔見てる」  大ざっぱなユリちゃんが白衣にデミグラスソースを飛ばしやしないかと母親気分で見守ってしまう。 「早く食べなよ、冷めるよ」  人と深く関わるのが好きだからか、話を聞くときも話すときもだし、相手の言動も気持ちの変化も頭と心と目に染み込むようにじんわりと入ってくる。  なにかにつけてユリちゃんは、西洋絵画の日傘を差している女の子みたいと、私のことを比喩する「麻美菜の周りだけゆったり時間が流れてるよね」って。    続けてユリちゃんは、子猫や子犬といるみたいに癒やされるって上機嫌で添え物のポテトフライを頬張りながら、「そこが麻美菜の良いところだよ。なんたって麻美菜は我がチームの癒やし」ってご満悦。  癒やしか。  なんの取り柄もなく目立たずおとなしい私は、幼いころから癒やされるって言われたり笑顔だけは褒められてきた。 「オムライスのとろとろ卵が固まっちゃうから早く食べなよ」  ユリちゃんに急かされて我に返って、慌ててスプーンを口に運んだ。  ゆっくり味わっているうちに、また頭の中を神経を疲れさせる憶測がぐるぐる回り始めた。 「私、大丈夫かな」 「今よりいいじゃん、あのクソ非枝(ひえだ)のチームから外れるんだよ、ラッキーじゃん」  私が働くクリーレン動物総合医療センターは、束縛時間が長くてチームごとに行動するから、朝から晩まで手術、診療、食事さえも同じ顔ぶれでいることが多い。  常に行動を共にするからか、大半のチームは本物の家族よりも家族のような関係が築かれて仲睦まじく医療にあたっている。    私とユリちゃんのチームは非枝先生率いるチーム。  ここは例外のようで、非枝先生にとって私は家族とも思えないくらい使えない落ちこぼれだから、チームから弾かれたんだと思う。  若手の中で有望株だって噂の非枝先生にとって、どうにも使い道のない私は、正直困り果ててしまうほどいらない人間だったんだと思う
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