第一章 エリート精鋭集団に放り込まれて

4/14
前へ
/37ページ
次へ
 非枝チームから出られて幸せなのか、それともエリート精鋭集団の院長チームに放り込まれるのが幸せなのか。  なるべく目立たず地味に生きてきた私にとっての幸せは、人に迷惑をかけずに役に立つこと。ただそれだけ。 「院長チームなんて、考え込んじゃうなぁ。私には荷が重すぎる」 「え、なにが心配なの、羨ましくて仕方ないよ」  コミュニケーション能力が高くて、物覚えも早くて瞬発力も判断力も度胸も愛嬌もあって、なんでもソツなくこなせるユリちゃんなら最高の異動だよね。  さっきから『羨ましい』を連発してくる。  私もユリちゃんになれたらなぁって羨ましくなる。なにも心配しないでウキウキで院長チームに行けちゃうもん。  先輩たちからは『どうして、あなたは出来ないの?』とか、三ヵ月が経ったころには『あの子は入って一ヵ月で出来てたのに、こんなにも出来ないもの?』とか、『同期と比べなくていいよ』とか言われてきた。  ずっとずっと周りからユリちゃんと比べられてきた。  私の不安はユリちゃんには理解出来ないだろうな。 「院長チームってイケメンでエリートばっかじゃん」  華やかなのは外見だけじゃない。院長を筆頭に精鋭たちの経歴がまた眩しいほどの華やかさを放っているから気後れする。  経歴やら性格やらクリーレンの情報は、誰にも臆せずどんな環境にもナチュラルに入っていけるユリちゃんから入ってくる。  院長は都内の大学の獣医学部を卒業後、都内の最新医療を誇る動物病院に入職。  その後、海を渡り米国州立大学獣医科でのレジデント(研修医)修了後、同じ大学で准教授を経て、理事長にヘッドハンティングされた。 「それと最新情報。論文では複数回にわたり受賞歴があるんだって。どうよ、初耳でしょ」  どこで仕入れてくるのか、ユリちゃんの情報収集能力に恐れ入る。 「ヘッドハンティングしたり、エリート獣医やエリート研修医を集めまくっても、まだ獣医不足は解消されないんだね」  人員不足の最悪の状態は肌で感じるよねって、ユリちゃんも頷く。 「今、都内の動物病院は高齢犬のお陰で、せっかく業績が順調なのに獣医不足は深刻な問題だよね」  ユリちゃんの言う通り、ここ大病院のクリーレンですら理事長は獣医不足に悩まされている。  代診医に依頼することも多々あるし。  最近では理事長のお眼鏡にかなう獣医師が見つからないみたい。  新しく勤務医が雇えないから、理事長みずから院長を引退して、若い獣医に動物病院を譲ったほうが病院の存続になるって考えて、道永院長体制になって五年目。  当時は、六十代の理事長が今退任するとは思えない。まだまだ現役でいられる技術も気力も体力もあるって言われていたんだって。  今は六十代も後半になった好々爺(こうこうや)。    理事長退任の噂があったころから、近い将来クリーレンから若き院長を抜擢するのかもって話はあったんだって。  そのために道永チームにエリート精鋭が集められたんだって。  次期院長の最有力候補は道永先生だと言われていたそうで、その噂どおり道永院長が誕生したんだって。   「院長チームにいる整形外科のチャラチャラ塔馬 敬太(とうま けいた)先生の情報も教えてあげるね」   「いいよ」 「そのいいよは聞かせてほしいほうのいいよだよね」  違うし。  よくユリちゃんは枕詞みたいなキャッチフレーズみたいなのを付けて、先生たちのことを教えてくれる。  整形外科の先生はチャラチャラってチャラいの?
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

127人が本棚に入れています
本棚に追加