第一章 エリート精鋭集団に放り込まれて

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「理事長になって保護施設センターを作れば、自分の名が売れるっていうんなら、あの手この手を使ってでもそうしようとするんだよ」  要は売名行為だって言いたいんだね。 「今、言ったでしょ。理事長は優しいの。犬猫のために作ったんだよ」  それ、どこ情報よ。世間知らずなんて言われたのも尾を引いて、少しムキになって理事長を庇った。 「麻美菜は純粋培養の無垢なお嬢様。そこが守ってあげたい、たまらなく可愛いんだな」 「ちゃかさないでよ。ユリちゃんに理事長のなにが分かるの? 言って良いことと悪いことがあるよ!」  一気にまくし立てたら、呆気にとられたような顔のユリちゃんの目と目が合った。 「麻美菜どうしたの? いつもなら私がおどけたら、つられて笑うじゃん」 「ごめんね、私も理事長のこと知らないのに、どうしたんだろう」  ユリちゃん、ごめん。 「あああ、ほら、大病院の娘なんだからユリちゃんのほうがよっぽど純粋培養のお嬢様」  なんとか、空気と話題を変えようと場を繕う。 「やめてよ、笑っちゃう。ショートヘアでカジュアルな服装。図体は大きな健康優良児。この丈夫な体格のどこにお嬢様要素があるっていうの?」  どこがよって感じで、筋の通った小さな小鼻を引く付かせながら口もとを緩ませる。  よかった、笑ってくれた。 「黒髪さらさらセミロングで透き通るような色白の肌はすべすべ。華奢な体で子犬みたいに一生懸命な麻美菜のほうこそお嬢様だよ」  少し体を縮こませてちょこまかして、私のものまねだって肩まで揺らして真っ白な歯を見せて笑っている。 「そうだ、先戻るわ。麻美菜はゆっくりしてきな」 「うん分かった、あとでね」   立ち上がったユリちゃんを見上げた。  ひとりになると、また変な人たちに嫌味を言われちゃうかな。 「麻美菜ぁ、そんな子犬がすがるみたいな、うるうるした目で見ないでよ」  行きづらいって椅子の背もたれに手をかけて、眉毛を下げている。 「ごめん、大丈夫だから行って」 「麻美菜の大きな目からぽろぽろ涙がこぼれ落ちそう、すぐ追うから医局に行ってて」  「うん」  ここにいると知らない獣医や看護師にまで声をかけられるから、私も出よう。  一歩、足を踏み出したら長く細く続く廊下にスニーカーがきしむ音が反響する。  ずいぶん急いでいるみたい、救急かな。  クリーレンなら日常茶飯事の光景。あちこちでシューズをキュッキュッと鳴らしながら、風を切って走って行く。 「やっと会えた、きみが阿加さんだね」  背後から聞こえた聞き覚えのないハスキーボイスに何事かと振り向くと、ネイビーのスクラブを着た先生が人懐こい笑顔を浮かべて立っていた。  『仮にあなたがどこの誰だか知らない相手でも、相手はあなたのことを知っているんだから相手はあなたに声をかけた。  だからクリーレンでは声をかけてきた相手に、しっかりと自己紹介をしなさい』  そうして、新人時代に先輩たちに叩き込まれたことは、ドジな私でも忘れることはなくて無意識に自己紹介をした。  うまく出来たか考え込んでいたら頭上から爽やかなハスキーボイスが溢れ出てきた。
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