第七章 怪しい隼人院長

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「ハッピーメリークリスマス!! 阿加ちゃん!!」  死ぬかと思った、ビックリして心臓が痛い。  どこからともなく男女の混じった声がいっせいに響き渡り、恐怖でギュッと固く閉じた目を開けたら同時に部屋に電気が灯り明るくなって、みんなが出て来た。  壁にはバルーンでハッピーメリークリスマスの文字が飾られ、サンタクロースやクリスマスツリーやケーキやブーツのバルーンがところ狭しと貼り付けてある。  ヒイラギの形やクリスマスカラーの赤や緑の星やバルーンもふわふわ浮いていて、大きなクリスマスリースは一番目立つ時計の下に飾られている。  飾り付けたときよりも増えている。もっとキラキラ光って凄く楽しい気分。 「メリークリスマス! どうしたの? あまりにきれいで圧倒された?」  朝輝先生の言葉に声を失った人魚姫みたいに頷くだけしか出来ない。 「メリークリスマス、もう朝食は済ませて来たよね、あとでみんなで食べよう。さすがにアルコールはダメだけどね」  俊介先生が手のひらを向けた先には、テーブルに乗った数々の料理やケーキが目に入る。  赤や緑や白やきつね色の料理が食欲をそそる。 「す、凄く豪華。美味しそうです、凄い」  凄いしか言葉が出て来ない。 「俊介先生、どなたがお作りになったんですか?! 持ち寄りですか?」 「院長だよ」 「隼人院長がですか?! こんなことも出来ちゃうんですか」 「阿加ちゃんの大きな可愛い目がますます大きくなってキラキラして可愛いね。僕の方も見てよ、料理に嫉妬しちゃう」    朝輝先生の甘口は相変わらず。   「信じられないです、本当に隼人院長こんな作れるんですか?!」  目は料理に釘付け。 「毎日毎日、多忙な院長がわずかな隙間時間を利用して、大樋さんご夫妻に料理を教わったんだよ」  朝輝先生が「院長から口止めされてたけど言っちゃった。ま、いっか」って笑っている。 「口止め、私に内緒だったんですか? 大樋さんご夫妻......って」  帰宅したと思ったらすぐに出掛けたり、帰りが遅かったのは、この日のためだったの? 「非枝チームではクリスマスの雰囲気がなかったから阿加ちゃん寂しそうにしてたんでしょ? それで院長が雰囲気を味わわせてやれって」 「朝輝先生、それ本当ですか......」   出勤前の車の中でなにげなく言ったことを覚えていてくれたんだ。   「うちは元々、毎年クリスマスらしいことをしているんだよ。でも今年はいつもより豪華だよ、誰よりも院長が張り切っていたよ」 「俊介先生、隼人院長って面倒くさがって飾り付けもやらないって、朝輝先生がこの前おっしゃっていました。本当に隼人院長は張り切っていたんですか?」 「そうだよ、さっきから僕や波島くんの言うことに疑心暗鬼になってどうしたの?」  まさか言えるわけないし。返事のしるしに苦笑いしか浮かべられない。 「隼人院長と大樋さんは?」 「山のように救急がセンターに回されて来ている。二人はかかりっきりだよ」 「ようやく、こうして人見先生と僕は解放された」  二人もこの後、外来診療や予定の手術や通しで当直をこなすんだもんね、気力体力に恐れ入る。    どうしよう、ひとりで勘違いして怒って外泊して、隼人院長に心配をかけてしまった。    なんて私は迷惑者なの。  でもまだ不倫の方は疑いが晴れていない。ワイパーにはさんだメモは読んだ?
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