第七章 怪しい隼人院長

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「とりあえず、今日の予定は阿加ちゃんは僕について外来。波島くんは予定の手術をスケジュール通りにおこなって」 「はい」  三人だから申し送りは医局でおこない、俊介先生につきながら外来診療をおこなった。  お昼になり、みんなが持ち寄ったっていうクリスマス限定のクッキーやチョコをつまみながら隼人院長と大樋さんが戻って来るのを三人で待った。 「帰って来たら、院長お手製の料理をいただこうね。それまでは我慢だよ」  子どもをなだめるような優しい俊介先生の言葉に、クッキーを頬張りながら返事のしるしに頷く。  ドアの開く音がして隼人院長と大樋さんが帰って来た。 「お疲れ様です」  三人がいっせいにソファーから立ち上がり、それぞれ言葉をかけながら迎えた。 「ハッピーメリークリスマス!!」  可愛らしい顔の朝輝先生のアンバランスなハスキーボイスが響き渡り、それが合図みたいにみんなも声を揃えてクリスマスを祝う。  隼人院長は控えめに口を動かしただけ。恥ずかしいのかな。  なんて観察している場合じゃない。たくさん言いたいことと聞きたいことがある。  でも二人の関係は秘密だから聞けない。 「昨日は外泊してなにしていたんだ?」  隼人院長の雷が落ちて激怒されるのを覚悟していたら、思った反応と違った。  それみんなの前で言ったらダメでしょ、秘密なのに。慌てた振りを周りに悟られないように、隼人院長にダメだダメだと合図を送る。 「まぁまぁ、院長。先に腹ごしらえしましょう。待ちくたびれて腹減りました」  ぼちぼち全員がソファーに座ると朝輝先生が紙皿をみんなに配り、それぞれが食べ始める。  みんなは外泊ってワードを聞いて驚かないの? 誰も食いつかない、特に朝輝先生なんて執拗に隼人院長に聞きそうなのに。 「院長、面倒くさがりなのにマメっすね、マジウマっ」 「循環器内科は器用だと常日頃から言っているだろう、なにをやらせてもプロ並みに上達するんだ」 「そもそも大樋さんご夫妻が料理上手だからっすよ」 「あら、私と夫は最初こそ院長に料理の手ほどきをしたけど、すぐにコツをつかんで自身のものにしていらっしゃいましたよ」  やっぱり大樋さんは大人、いつも隼人院長を立てて謙虚。  助手席の傘はなんなんだろう。ただ送り迎えしただけなのか不倫なのか。  意識的に二人を避けてしまい、俊介先生と朝輝先生の間で二人とばかり話してしまう。 「おい、さっきの話。外泊してどこでなにをしていたんだ?」  わ、私の方を見ている? ダメだよ、秘密なんだから。
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