第七章 怪しい隼人院長

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「すでにセンター中に俺たちが付き合っていて、同居していることがバレている」 「隼人院長がバレるスリルを味わうって言って今みたいに喋っちゃうからですよ、もう」 「このおっちょこちょい、お前でバレたんだ」  そんなバカな、絶対あり得ない。 「私、喋っていませんよ?」 「ワイパーにメモをはさんでおいたんだろう?」 「それが?」 「彼氏の車ぐらい覚えておけ」  「覚えていましたから、隼人院長の車のワイパーにはさんでおきましたよ」 「同車種で持ち主は別人だ。カーナンバーも覚えておけ、ドジ、アホ、マヌケ」  「私、間違えたんですか?! 辺りは暗くて車は黒くて、おまけに同じ車種なら間違えちゃいますよね」 「よくそう居直れるな、感心する」 「院長、これは阿加ちゃんの成長っすよ。当初は内気で世間話の輪にさえ入って来れなかったのに、努力で頑張った証っすよ」 「そうだね、僕らは喜ぶべきだね」  朝輝先生も俊介先生も褒めてくれた。成長か、無自覚だった。 「ちなみに俺と大樋さんは不倫なんかしていない。別人の車だから、当然お前の見た助手席の傘は大樋さんの持ち物ではない」 「やあね、阿加ちゃんったら院長と私が不倫してると思ったの? 傘もよく見てね、カッときちゃって私の傘だと思い込んだのね」 「お前の第六感は動物に対しては鋭く正確だが、普段は斜め上をいく誤作動を起こすんだな。使えねぇな」  そうね、アンバーのときはナイスアシストってみんなから褒められた。   動物以外はあてにならないのかな、私の第六感。 「勝手に勘違いして勝手に外泊して、ひとり相撲を取って空回りしていたんだ、お前は」    「すみませんでした。お恥ずかしいです、なにも言えません」 「メモには、ご丁寧にも俺らの現状がバカ正直に書かれてあったから、すぐに俺らだと特定された」 「センター中に光の速さで、またたく間に広まったよ。いつかは僕の阿加ちゃんになると思ってたのになぁ」  冗談か本気か寂しそうな朝輝先生。また隼人院長が焼きもちを焼くからその辺にしておいて。 「塔馬(敬太)先生と葉夏が帰って来たらびっくりしますね」  俊介先生が控えめながら嬉しそうに微笑む。 「それより忘れていないか?」  隼人院長の怪訝な顔と声に反応した一同の動きがいっせいに止まった。  入院の子、救急の子、それとも手術でなにか? 頭の中で色々な想定がぐるぐる回る。  きっと、隼人院長以外のみんなの頭の中もそうでしょう?
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