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8 令和5年8月 ひい叔父さんの想い
「三原さんは、曽祖父を助けようとしたのだと思います」
上山が再び口を開いた。
「お前は必ず生きて日本に戻り、家族に手紙と写真を渡して欲しい、と曽祖父に託したのだそうです」
上山の曽祖父は、戦地から日本に戻るとすぐに三原さんのご家族を探したけれど、その頃三原家は空襲で家が焼かれ、引っ越していたため、見つからなかったのだと言う。
戦争により片足を不自由にし、なかなか三原家に辿りつけずに申し訳ないと、上山は頭を下げた。
「三原さんのおかげで生きて日本に戻って来ることができたのだと、曽祖父はよく言っていました。それなのに、預かり物を届けるまでに三代もかかってしまいました」
葉瑠は涙を拭って首を横に振る。
「いえ、ひい大叔父様を、家に戻してくれてありがとうございます。うちには写真しかなかったので……。仏壇に、ひい婆ちゃんに、伝えます。きっと、喜ぶと思う。可愛がっていた弟だから」
葉瑠はふと、聞いたことのないひい大叔父さんの声が聞こえた気がした。
「ただいま!」
そして、懐かしいひいおばあちゃんの声も聞こえた気がする。
「おかえり、逢いたかったよ」
上山が頭を下げたのをみて、葉瑠は我に返った。
上山はソファから立ち上がり、仏壇の前に行くと手を合わせた。
「ありがとうございました。では、そろそろ失礼いたします」
穏やかに微笑んで、帰ろうとする上山に葉瑠は名残惜しさを覚えた。
なぜなのかは、自分でも分からない。
葉瑠は夢中で、上山に尋ねた。
「また、会えますか?」
葉瑠の問いに上山は一瞬戸惑い、それから柔らかい笑顔を見せて、頷いた。
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