1 令和5年8月 見知らぬ訪問者

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1 令和5年8月 見知らぬ訪問者

「弟さんを大好きなお姉さまとご家族の元に返してあげたいと思って……」  上山(かみやま)の言葉に、葉瑠(はる)は息を飲んだ。  家のインターホンが鳴ったのは、八月。  蝉が元気よく鳴いている、暑い暑い夏の日だった。  お盆休み。  家族は出かけて出払っている。  会社が休みで葉瑠一人、自宅でのんびりしていたところだった。  帽子を目深に被り、額から吹き出る汗を拭いながら、玄関に立つその男性は、葉瑠と同年代か少し上、二十代後半から三十代前半に見えた。  普段人の出入りは少ない家なので、押し売りかと警戒しながらインターホンで話をする。  相手の用向きを聞いて、家の中に案内することにした。 「上山 貴士(かみやま たかし)と申します。今日は突然お邪魔してすみません」  上山と名乗る男性は28歳なのだと自己紹介した。  葉瑠より二才ほど年上だった。  エアコンの効いたリビングに案内し、冷茶を出すと、上山はふぅ、と息をつく。  そして持ってきた鞄をあけ、角二封筒を取り出した。 「先日曽祖父が亡くなりまして、遺品を整理していたところ、こちらの手紙と写真が出て参りました」  上山がテーブルに写真と、三つ折りにされた手紙を置く。  セピア色の写真は、ところどころよれていたが、画像部分はピシッとしていて、大切に持っていたのであろう事が見て取れた。  上山は写真と手紙をテーブルに置いた後、仏壇に線香を上げ、長い間手を合わせていた。
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