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7 令和5年8月 ひぃばあちゃんへの手紙
「私の曽祖父と三原さんは、同じ隊でした。年齢も近く、三原さんとは仲が良かったようです。生前、曽祖父が幼い私にそう話していましたし、曽祖父の日記にも記してありました」
上山は淡々と葉瑠に語った。
そして手紙と写真を、葉瑠に手渡した。
手紙は封はしておらず、封筒の中には三つ折りにした手紙が入っている。
葉瑠は手紙を破損させないように、慎重に封筒から取り出して開いた。
「拝啓 御母上様、御姉上様
お健やかに過ごしておられますか。
御母上や御姉上に見送られ、家を出たのはつい昨日の事のように感じます。
こちらは南国でとても暑いです。
ですが御母上や御姉上がお元気で過ごせるよう、そして、お国のために私は最期まで戦います。
ご安心ください。
私は家を出る時にお二人に御礼を申すことができませんでした。それが少しばかりの悔いとなっております。
十九年間、私を慈しみ、教え、導いてくださったことに、心より感謝を申し上げます。
私は明日、敵地最前線へ向かいます。
御二人のお導きの通り、日本男子として恥ずかしくないよう、戦って参ります。
御二人とも身体を丈夫にお過ごしください。
嗚呼、御母上、御姉上
会いたい、会いたい、会いたい
本当は、ただ、会いたいです
合掌
三原 賢治 」
几帳面で達筆な文字だった。
読んでいる葉瑠の瞳から、涙が溢れる。
「三原さんは送るつもりのない手紙だ、と曽祖父に言っていたそうです。送ろうとしても、検閲に引っかかるでしょうし、日本男子が何をひ弱な事を言っている、と上官から怒られて、連帯責任で皆が殴られるだけだったからです。三原さんが捨てようとした手紙を曽祖父は預かりました。それは、」
そこまで言って、上山は口を閉じて目頭を押さえる。
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