9 令和6年8月 拝啓ひぃばあちゃんたち

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9 令和6年8月 拝啓ひぃばあちゃんたち

「葉瑠、そんなに緊張しなくていいから」  貴士さんの言葉に、ニッと白い歯を見せて笑ってみる。 「そう言う貴士さん、スーツのズボンの後ろポケット、裏地が飛び出してる……」   指摘すると、貴士さんは照れくさそうに微笑んで、裏地を丁寧にしまった。  昨年、貴士さんが家を訪ねて、ひい大叔父様の手紙と写真を届けてくれた後、私たちは連絡を取り合うようになった。  お互いに惹かれあって、一年間、付き合った。  そして先日。 「僕達、ずっと一緒に過ごしませんか? 僕と結婚してください」  貴士さんからプロポーズを受けた。  ひい大叔父様の件があったからなのか。  お互いの家族に報告すると、盛大に喜んでくれた。  今日は結納の日。  私たちは八月を選んだ。  結納前、お互いに墓前へのご報告。  ひいおばあちゃん、ひい大叔父さん、上山さん。  見てくれていますか?  不思議なご縁で、貴士さんと私は一緒にいることになりました。  きっと、喜んでくれているよね。  見守っていて下さいね。  ひいおばあちゃん、ひい大叔父さん、上山さんとか、たくさんの人が命をかけて守ってくれた平和な日本で。  私たちは、必ず幸せになります。   「そろそろ、行こうか」  貴士さんが優しく微笑んで、私に手を差し出す。  貴士さんの手を取って、空を見上げる。  蝉が盛大に鳴いている、暑い暑い八月。  広がる青空には、爆弾ではなく、人を乗せてどこかへ向けて飛んでいく飛行機と白い雲が、日差しを受けて輝いて見えた。 〈了〉    
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