家庭妻園

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 自宅の玄関扉を開き、俺は固まった。上り(がまち)に妻が無表情で立っていた。 「ただい」  言い終える前に妻は横を向き、寝室へと姿を消した。俺は口を引き結ぶ。靴を脱ぎ捨てて浴室へと向かった。カラスの行水よろしく、手早くシャワーだけ済ませて脱衣所に上がる。半袖短パン姿になり、リビングのソファに寝転がった。スマホを手にしてトークアプリを開く。 『今夜も楽しかったよ♡ 次いつ会える?』  画面上部に表示されるメッセージ履歴。不倫相手からだった。返事は送らず、別アプリを立ち上げる。ネット検索バーに『人妻 不倫 バレない』と入力してみた。表示された関連記事を目で追う。文字の羅列を流し読みしていて、ふと、液晶画面をなぞる指を止めた。 「かていさいえん……」  思わず呟く。某通販サイトのページに、『家庭園』というカラフルな文字が踊っていた。 「シャレのつもりか?」  鼻で笑うも『詳細はコチラ』の文字に触れる。イメージ画像は添付されていない。商品の紹介にはこう書かれていた。 ――家庭妻園はご自宅で簡単に自然由来の妻を育成、妻培(さいばい)することができるキットです。最近奥様との会話がない……などのお悩みを持つそこのあなたも、緑豊かな妻に癒やされてみませんか? 「妻を自分の手で、だと?」  いかにも胡散臭い内容に、 「そんな話あるわけ」  サイトを閉じようとした。が、 ――『ただいま』が待ち遠しくなるパートナーをあなたのもとに。  という一文に目が吸い寄せられる。先ほどの妻との冷めきったやり取りを思い返した。 「……週末の暇潰しぐらいにはなるか」  俺はスマホを操作し、家庭妻園を注文した。 ※    
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