消えゆく恋心

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 「そう言えばね、菜乃花ちゃん」  「はい、何ですか?」  ベッドの横に座った菜乃花に、おじいさんが声を潜めて話し出す。  「私の処置をしてくれた先生がね、これまた美男子なんだよ。えっと、今で言うイケメンってやつだな」  「へえ、そうなんですね」  「うん。しかもまだ独身なんだって。菜乃花ちゃん、どう?」  「はい?!どう、って、どういう?」  菜乃花が面食らうと、おじいさんは含み笑いをする。  「菜乃花ちゃんとお似合いなんじゃないかと思うんだよ。紹介しようか?ちょっと待ってね」  そう言って、ナースコールのボタンを押そうとする。  「わー!ダメダメ!加納さん、そんなことにナースコール使っちゃダメです!」  「そう堅いこと言わないでさ。菜乃花ちゃんには幸せになって欲しいんだよ」  「お気持ちはありがたいけど、それは押しちゃダメです!」  「そうか。じゃあ、今から呼びに行ってくるよ」  「ヒー!加納さん!いいから、私のことはいいから!立ったらダメ!」  「そんな病人扱いしなくても…」  「立派な病人です!加納さん、お願いだから横になって!」  ベッドから降りようとするのを必死で止めていると、ふいに後ろから声がした。  「なんだか賑やかですね、加納さん」  (うっ、この声は…)  聞き覚えのある声に、菜乃花は振り返らずに身を固くする。  「あ、先生!ちょうど良かった。今、先生を呼びに行こうと思ってて」  「ん?どうかしましたか?どこか具合でも?」  「違うんだよ。実は先生にこの子を紹介したくてね。私の命の恩人の菜乃花ちゃん。可愛いでしょ?」  「か、加納さん、ちょっと!」  菜乃花は慌てて小声で止める。  「菜乃花ちゃん。こちらは宮瀬先生。ね?イケメンでしょ?」  「そ、そうですね」  「二人とも私の命の恩人だもんな。お似合いだよ、うん」  顔を上げることも出来ずに、菜乃花はうつむいたまま固まる。  その時「加納さーん、リハビリの時間ですよー」と、理学療法士らしき男性が入って来た。  「じゃ、ちょっと行って来るよ、菜乃花ちゃん」  「はい、お気をつけて」  「ではあとは、お二人でごゆっくり」  は?!と菜乃花がうわずった声を出すと、あはは!と笑いながらおじいさんはゆっくりと病室を出て行った。
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