初恋の卒業式

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初恋の卒業式

 「おめでとう!」  皆が口々に祝福の言葉をかけ、カメラを向ける。  「ありがとう」  新郎新婦の二人は幸せそうに微笑んで、テーブルの中央にあるキャンドルに灯りをともした。  「おめでとう、春樹」  「ありがとう、颯真(そうま)。忙しいのに悪いな」  「いや、大丈夫だ。お前の晴れ姿を見られて良かったよ」  もう一度おめでとうと言うと、春樹は頷いて新婦の肩を抱きながら次のテーブルへと移動していった。  「とっても綺麗な奥様だね」  「うん、本当に。春樹先輩ともお似合いだね」  グラスを手に取りノンアルコールビールを飲みながら、颯真は同じテーブルの女性達の会話になんとなく耳を傾ける。  披露宴が始まる前、颯真が友人と席札の置かれた席に座ると、面識のない女性3人組があとから現れ、互いに軽く自己紹介をしていた。  6人掛けのテーブルの半分は、新郎である春樹の高校時代の友人、颯真達男性3人。  あとの女性3人は、春樹の大学院時代のゼミの後輩ということだった。  颯真はふと、右隣に座っている女性の様子に目をやる。  綺麗な長い指でスマートフォンを操作し、今しがた撮ったばかりの新郎新婦の写真を眺めているその横顔は、微笑んでいるのにどこか哀しそうにも見えて、颯真は気になった。  とその時、ジャケットの内ポケットでスマートフォンが震え、颯真はすぐさま取り出して目を落とす。  「颯真、ひょっとして呼び出しか?」  「ああ。悪い、抜けさせてもらうわ」  「いや、気にするな。春樹にもあとで言っておくよ」  「すまん」  友人と言葉を交わしてから立ち上がった颯真は、同席の女性達に「仕事がありますので失礼いたします」と頭を下げて会場をあとにした。
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