消えゆく恋心

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 「菜乃花ちゃん!いらっしゃい」  「こんにちは、有希さん。お邪魔します」  「どうぞ入って。菜乃花ちゃんが来てくれるのをとっても楽しみにしてたの!」  以前にも増して明るい有希に、菜乃花も思わず笑顔になる。  「有希さん、良かったらこれどうぞ。『ロージーローズ』のプチタルトBOXです」  「うわー、ありがとう!」  有希は早速箱の中を覗き込む。  「可愛い!なんて繊細なの。雪の結晶に、これは雪だるまね」  冬をモチーフにした12種類のタルトの詰め合わせに、有希は目を輝かせる。  菜乃花とそれぞれ3つずつ選ぶと、紅茶と一緒に味わった。  「んー、美味しいわね」  「ええ。なんだか優雅な気分になります」  「ふふ、本当に。外に出られなくても、おうちでこんなふうに素敵なティータイムが出来るのね。春樹に頼んで、また買って来てもらおうっと」  有希の言葉に菜乃花は、ん?と首をひねる。  「有希さん、外に出られないんですか?」  すると有希は、少しうつむいてはにかんだ笑みを浮かべた。  「実はね、私、今妊娠7週目なの」  「え?!そうなんですね!おめでとうございます」  「ありがとう!でも体調があまり良くなくて、仕事も休んでるの」  え…、と菜乃花は言葉を詰まらせる。  「あ、そんなに心配しないで。ドクターにも、心配し過ぎずのんびり過ごすように言われてるから。でもね、私、これまでずっと働いてきたから、毎日家に一人でいると息が詰まっちゃって。それが逆にストレスなの」  それで春樹が、有希の話し相手になって欲しいと頼んできたのか、と菜乃花は合点がいった。  「今日菜乃花ちゃんが来てくれたら、急に元気になっちゃった。ふふ、なんだか単純ね、私」  「有希さん。私で良かったら、いつでもお相手します」  「本当?嬉しい!」  そんなに喜んでくれるなんて、と菜乃花も嬉しくなった。
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