153人が本棚に入れています
本棚に追加
偽装出張の日が終わり恭介くんと別れる日、ビジネスホテルの部屋の中、いついなくなるかはわからないと恭介くんが言う。
「ならこれが最後かも」
「そしたらポンコツだと思うけどここの世界の俺を頼って、全部話せばきっと俺のことだから信じるよ」
「わかった」
触れ合うことはないまま別れる。
「恭介くんが最初に出て、私遅くなるって言ってるからもう少しここにいる」
「わかった」
恭介くんは先に進む。ドアのところまで進んでくるりと振り返る。
「ありがとね」
「探偵からのいい返事、待ってる」
「また会えるの信じてる」
真っ直ぐな目でそう言ったら恭介くんは少し困ったように笑った。
「そんなこと言うと抱きしめたくなる」
抱きしめてほしい。だけど縮まらない距離。
そっと手を挙げる。さよならの合図。
だけど、その手を取られる。そして次の瞬間、ふわりと温かい感覚が体全体に包まれた。
「許されるかな?」
なんて聞かれて私は小さく首を縦に振った。
「恭介くん」
そう言って恭介くんの背中に手を回そうとしたとき、恭介くんの体はふっと離れた。
「じゃあね」
「あ、うん、じゃあね」
最初のコメントを投稿しよう!