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入社して半月ほどが過ぎた頃。
そろそろ髪の毛を切ったら、と大石さんに言われてしまった。そうかもしれない、と私は自分のちりぢりになったボブカットをつまんで思う。
ここのところ湿度の高い日が多い。少し出かけただけで髪の毛がちりぢりになってしまう。幼い頃から歩身の毛が細くて湿気を吸いやすいのが原因だった。いっそ伸ばしてしまった方が手入れもしやすくなるのだろうか。いやしかし、今このぐちゃぐちゃっぷりははしたないような気もするので、なやみどころである。
「ただいまあ」
今日も今日とて、私はいつもの部屋に帰る。落ちていた新聞紙を蹴っ飛ばしながら靴を脱ぎ捨てると、洗面所へと向かった。足跡がついてしまい、げ、と声を上げる。そういえば少し埃がたまってきたような気がする。そのうち掃除機をかけなければいけないだろう。
洗面所の電気をつけて、蛇口をひねる。手を洗いながら、賀紙の中の自分を見た。やっぱり、ちょっと髪の毛がぼさぼさになっている気がする。散髪代をケチりたい気持ちもあって、少しだけ悩んでしまう。ズボラな大石先輩が髪を切ったらと言うくらいなのだから、結構酷いことにはなっているのだろうが。
「……うーん、どうしよっか」
鏡の中の自分に声をかけた。もちろん返事なんかない。それでも、鏡の中の自分が苦笑いをしてきたような気がした。声が聞こえる――どうせお洒落したってブスはブスじゃん、と。
いやほんと、まったくその通りだ。
「まあ、また今度でいいか」
それよりも、さっさと晩御飯を食べてしまおう。
最近面倒くさくてカップ麺しか作っていないが、カップ麺もあれはあれで美味しいものである。
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