4人が本棚に入れています
本棚に追加
***
入社一か月。
最近シャツがぐしゃぐしゃになっているよ、と課長に苦言を呈されてしまった。さすがに平謝りである。入社してすぐの時はちゃんとアイロンをかけていたのに、ここ最近は面倒くさくなってしまってやっていなかった。たまに洗濯する時も網にいれることもしていないせいか、あちこち引っかかってボタンが取れかけているのも問題なのだろう。
私達は基本的に事務の仕事だけれど、来客対応がないわけじゃない。流石にある程度身だしなみを整えておかないといけないのは確かだ。何も言ってはきていないが、ここのところ化粧をサボっているのもバレているかもしれない。まあ課長は男性だから、そういうのは疎いかもしれないが。
――やらないといけないのはわかっているけど、やっぱ面倒くさいんだよなあ。
ざっくばらんに伸びてきた髪の毛をひっぱりつつ、私は今日も家に帰る。
「ただいまあ……」
なんだか、空間に力のない声が響く。やっぱり、真っ暗な部屋に一人で帰るというのは寂しいものがあるなと思う。段々日も高くなってくるだろうし、そうすれば気持ちも晴れるようになるだろうか。玄関のタタキに落ちていたティッシュを踏みつけつつ、廊下を歩く。そういえば、最近家の中を歩くと靴下が真っ黒になってしまうのだけれど、どうしてだろうか。
洗面所へ向かう。明かりをつける。蛍光灯がきれかかっているのか、ちかちかちか、と音を立てて点滅した。交換しなければいけない。というか、さすがにもうLEDにしないといけないのだろうか。しかしこの家の電気って、LEDにちゃんと対応しているのだろうか。
「ふぁーあ、めんどくさ……」
そういうのを調べるのも面倒くさい。点滅しがちな白い光の中、蛇口をひねる。茶色っぽい水で手を洗い、顔を洗った。なんだか顔が臭くなってしまったが、気にしないことにしよう。どうせ化粧もしていないのだし、そんなにがっつり顔を洗う必要もあるまい。
振り返れば、洗濯物が籠にたまっている。黒い虫のようなものがスキマから這い出してきているのを見て、思わず“げっ”と呟いた。触りたくない。あれはもう、洗わないで捨ててしまおうか。なんかもう、捨てるのも面倒くさいのだけれど。
リビングに戻る。お湯をわかすのもなんか面倒で、最近はカップ麺も食べていない。冷凍食品をチンすることにした。冷蔵庫を開けると手になんか茶色くてぬるぬるしたものがこびりついてきたが、別に気にしなくてもいいだろう。パスタを取り出し、電子レンジに突っ込む。
ちらり、とテーブルの方を見る。テーブルの上にたくさんたまった、食べ終わったカップ麺や冷凍食品のゴミ。今日食べるスキマはあるだろうか、と思う。もう少し上手に積み上げなければいけない。せっかく天井はそれなりに高いのだし、地震でも起きなければ倒れてくることもないだろう。
まあ倒れてきても、紙ごみなんて大した重量ではないが。
「ねっむ……」
欠伸をしながら、電子レンジを見る。レンジも調子が悪いのか、時折オレンジ色の光が消えて、不自然に止まるのが見えた。
最初のコメントを投稿しよう!