泡のふたり

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-ーーー  ウミという人間は、少し変わったやつだった。  おれを見つけても騒がなかったし笑っていた。おれが食べた人間、アオイって人のことが凄く好きだったのだと思う。 (ウミには言ってないけど。……実はアオイの記憶、ちょっとだけ分かる)  人間を食べたのはアオイが初めてだったけれど、彼の遺伝子に組み込まれた記憶がぼんやり頭に染み渡る感覚があったのだ。  アオイは海に浮いている時でさえ美しかった。生きているときはさぞ持て(はや)されたんだろうと思った。  違った。アオイの人生は海の底よりも暗かった。  美しいからこそ幼い頃から大人に目をかけられて身を売っていた。親も身売りで稼ぐよう言ってくるような人だったらしい。  女にも男にも変な視線を向けられて、アオイは自分の外見に疲れていた。  そんなアオイにとって、唯一の救いだったのがウミの存在だったらしい。  気さくで温和、変な視線を向けてくることもない。気軽に話せる友達で、少しばかり苦しみも分かち合える存在。アオイが身を売っていることを知っても態度を変えることもなく、隣にいてくれた。 (ウミの記憶だけ温かい。……でも死んじゃった。アオイは大人になる前に死ぬって決めてたみたいだ)  ウミの重荷になりたくないとも思っていたようだった。 (でもウミは……おれの顔を見て、すっごく嬉しそうだった)  夕方、陽が傾いていく海辺で顔を出すと、ウミが目の前の岩の上に立っている。  ウミはこっちを見つめながらしゃがんで、学生服を海風にはためかせながら呟いた。 「明日にでも。……若い人間を、連れてくるよ」 「できるの? 生きてたらヤだよ? 暴れるもん」 「……あの上から、落ちてもらう」  そう言ってウミが指差したのは、岩肌をずっと上になぞった先にある崖のような場所だった。 「きっと(あおい)はあそこから飛び降りた。有名な身投げスポットでさ。……同じ目に遭ってもらおうと思う」 「同じ目?」  
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