マゼンダ・エンプレス

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マゼンダ・エンプレス

 「まぁ、ぴったりだわ!やっぱりこの形のドレスを選んどいて正解だった!」 結婚式に着るためのウエディングドレスの試着をしに来ていた植原は嬉しそうに鏡の前でくるりと一回すると満足気に微笑んだ。 「えぇ、とてもよくお似合いですわ!」試着の手伝いをしていた従業員の女が頷くと植原はますます嬉しくなって「ありがとう」と頬を赤らめた。 「来年の結婚式が待ち遠しいですわね」 「えぇ本当に。あぁ 早く来年の春にならないかしら!」 来年の四月に伊東と結婚式を挙げる予定になっているのだ。四月を選んだ理由はその月が植原の誕生日だからだった。 昔から目立つ事が好きでいつもセンターに居なくては気が済まない性格の植原は結婚式でも親戚から友人から沢山の人を呼んで誰よりも盛大な式を挙げるつもりでいた。 “主人公は私”、それが彼女のプライドでこの世を強く生き続ける原動力の呪文。 婚約者である伊東の事は正直特別好きと言うわけでない。なら何故彼と結婚する事を決めたかと言えばただ単純に彼が大企業の幹部でお金を持っているから。 田舎生まれ田舎育ち 幼い頃からの夢は華やかな都会で勝組(セレブ)になる事。もうすぐ長年の夢が叶う日が目の前まで来ている。これが浮かれずにいられないわけがなかった。 「伊東さんに頼んで結婚式を明日にしてもらおうかしら?」 冗談を言って笑ってみせると「あらまぁ」と従業員の女はおかしそうに笑った。
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