怪しい奥様

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「あぁ…きっと俺も同じ事を気にしているだろうさ」李兎が笑みを浮かべた。 「「どうして谷口加奈子さんは“一年も前に亡くなっていたのか”」」 二人の声が重なった。 「谷口加奈子さんが亡くなったのが分かったのはつい数週間前。でも死亡推定時刻は一年前の春」 「それが可笑しいのだよ」李兎は頷いた。 「何故家族の誰一人として加奈子さんの事を気にかけていなかったのか…。そしてあの母親の泣き方…どうにもワザとらしく見えてならない」 「ありゃきっと演技だ。涙が出てなかった」 李兎は静かに禄助を見た。 「加奈子さんは母親と喧嘩して家を飛び出したままずっと行方不明になってたらしいって母さんが言ってた。…にしてもだ、いくら身勝手に家を出てったにしても実の娘…自分家の家族が亡くなったってのにあの母親と言い父親、爺さん婆さん…皆ただ“悲しんでるフリ”をしてる。気持ち悪いったらない…」 「うむ…。まるで加奈子さんが亡くなった事を気にしちゃいないみたいだものな。それに昨夜お前から電話で聞いた話し、あれも非常に妙な話しでならんよ。まさか…行方不明になってるはずの加奈子さんは家に帰らないだけで遺体となって発見されるまで普通に学校に通っていただなんて…。彼女の同級生の子達も皆しっかり加奈子さんが学校に来ているのを知っているのだろう?それは何故だ?まさか彼女自身が幽霊となって姿を見せていただなんてあるまいな?」 「さてね。そりゃ分かんねぇよ、霊能力者にでもなけりゃ…。ただひとつだけ確かなのは加奈子さんの死はただの自殺とは考えられないって事だな」 「そうだな」 「綺麗な方だったらしいですよ」 突然背後から聞こえてきた声にびっくりして わっ! と二人はベンチごと後ろにひっくり返りそうになった。
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