誰も知らない物語

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誰も知らない物語

 映画の上映も終わり客も皆居なくなったホールで将吾達と並んで座っていた禄助は真っ暗なスクリーンを見つめたまま ジュ〜 っとアイスコーヒーを飲んでいた。 「加奈子が産まれてから二年後くらいに今度こそ間違いなく ゆう子は禎通さんの子を産んだ。女の子だった。名前は日奈子と言うらしい。姉の名前が加奈子が似た名前を付けたんだと」 「ふぅん…」 「加奈子はゆう子にとてもよく似ていた。そして日奈子もまたゆう子似だった。でもそれだけじゃなかった。どうしてなのか、何故こんな事になったのか、義理とは言え片親が同じだと言うだけでこんな事ありえるのか、いや、俺達が勝手に否定したいだけでこんな事はごく普通にありえておかしくはない話しなのかもしれない。加奈子は俺とゆう子の子で、日奈子は禎通さんとゆう子の子なのに、皮肉な事に何の悪戯か、加奈子と日奈子は一卵性の双子ではないかと勘違いされるほど容姿が瓜二つだったんだ」 禄助は静かに将吾を見た。 「俺は二人が容姿が似ていても加奈子が元気で居てくれるならそれだけで良かった。だけど ゆう子は違った。いくら仲直りしたとは言え心から愛していない人との間に出来た子を素直に愛しいと思えなかったんだ。どうしても平等に愛してやれなくて ゆう子は加奈子だけをいつも贔屓して、妹の日奈子の方には当たりが強かった。加奈子には加奈子が欲しい物をきちんと与えて 日奈子には我慢させた。そのうち ゆう子は他の家族が皆外に出払って日奈子と二人になると豹変して禎通のストレスを日奈子にぶつけるようになった…虐待するようになったんだ」 『お姉ちゃんばっかりズルいですって?貴方が何にも出来ないから悪いんじゃないの!文句言わないで!!』 『気安く触らないで!!貴方の顔を見てると腹が立ってしょうがないわ…何で貴方なんか産まれてきちゃったのよ!?消えてよっ!!どっか行け!!』 「…日奈子は母親の暴力から逃れるといつも決まって近所の公園のブランコに座って ぼんやりしながら足をぶらぶらさせていた。それを見かけても俺は話しかけてやる事さえ出来なくて ただ黙っていつも背を向けてその場から来た道を引き返していた」 「日奈子さんのお父さん達はゆう子さんが日奈子さんを虐待してる事を止めなかったの?」 「禎通さんは気付いてないからな。日奈子も言わなかったみたいだし…。だけど加奈子だけは知っていた…」
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