誰も知らない物語

2/6
前へ
/131ページ
次へ
日奈子(ひな)、私がお母さんにやめるように言ってあげるよ。だから泣かないで、もう大丈夫だから』 『……お姉ちゃん…』 「加奈子は日奈子を抱きしめた。日奈子は今までずっと我慢していたものを吐き出すように加奈子の腕の中で声をあげてたくさん泣いた。そして加奈子は勇気を出して ゆう子ひ日奈子への虐待をやめてくれるように必死で頼んだ。すると…」 『…じゃあ加奈子(かな)ちゃん、お母さんと一緒に死んでくれる?』 『…え?』 「ゆう子は引き出しに隠していたナイフを取り出した。後から知ったのは そのナイフはいつか禎通を殺すために毎晩『死ね死ね』と言葉を吹き込んでいたナイフだったそうだ。加奈子は怖くなってその場から逃げた。日奈子はそれを襖越しにしっかり見ていた。加奈子は ゆう子の虐待を止める事を失敗した。おかげで虐待はエスカレートしていき日奈子はついに ゆう子にハサミで長い三つ編みをばっさり切られた」 『貴方が全部悪いのよ、貴方が…貴方が!』 「日奈子の三つ編みは加奈子がいつも結ってくれていた。身体や心は ぼろぼろ でも日奈子は自分の長い髪だけはとても大事にしていた。日奈子はついに逆上して ゆう子を殺そうとした。だがその時に加奈子が止めに入って……」 「ゆう子さんの代わりに加奈子さんが亡くなってしまったんだね」 将吾は頷いた。 「この話しはパニックになって血だらけになって夜中俺の所へ来たゆう子から聞かされた。俺は警察に言うべきだと何度も言ったがゆう子を追いかけて来た禎通がそれは駄目だと言って聞かなかった。そしてそのまま禎通は『二度と俺達一家に関わらないでくれ。今回の事も誰にも言うな。一言でも誰かに喋ったら ゆう子を殺す』そう俺に言ってゆう子を連れて帰って行った。俺が知っているのはここまでだ。その後 加奈子の遺体が何故山で見つかったかはさっぱり分からない。まぁ多分禎通が埋めたのかもしれないとは思うけど…」 「話してくれてありがと…」禄助は小さく礼を言った。 「…キミはどうしてそんなに加奈子の事を気にかけてくれるんだ?」 ずっと疑問に思っていた事を将吾が尋ねると禄助は空になったアイスコーヒーのプラスチックの容器を将吾に渡した。
/131ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加