誰も知らない物語

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              「…お姉ちゃんを殺してしまった後はずっと苦しかった」 雪が降っている中 公園のベンチに座っていた日奈子はそう言ってブーツの先でちょっと地面の雪を蹴った。 「だろうな」と李兎が頷いた。日奈子から少し距離を空けてベンチに座っていた昴が「なぜ警察に言わなかったんですか?」と聞いた。 「お父さんが黙ってろって言うから怖くて言えなかった」 「だがずっと逃げているわけにはいかんだろう?」 「それは分かってる!でも…」日奈子はちょっと俯いた。「“もしかしたら”って私の中で眠ってた悪魔が目を覚ました」 二人は黙って日奈子の話しを聞き続けた。 「さっきも話した通りお母さんはいつも私に暴力を振るってたけど、絶対にお姉ちゃんにだけはそんな事しなかった。それどころかお母さんはお姉ちゃんをとても溺愛していた。同じ姉妹でどうしてこんなに違うのか小さい時からいつも疑問に思ってた。 そんなある日 偶然ポストに入ってたお母さん宛のハガキを渡しにお母さんが居ると思ってお母さんの部屋に行ったら机の引き出しが開いていたの。そこにはお母さんがよく使ってる手帳があって 間に何か写真みたいなのが挟まってるのに気付いた。いけない事だと思いながら興味本位でそれを引っ張って見たら その写真には看護師の格好をしたお母さんが見知らぬ男性と笑顔で写っていた」 「前田将吾さんですね」 日奈子は頷いた。 「知らない人だけどその笑い方は私が凄くよく知ってる人に似ていた」 「お姉さんの加奈子さんだな」 「そうよ。お姉ちゃんと似ていたの。私はすぐに察したわ、あぁ お姉ちゃんのお父さんはこの人なんだって。そしてお母さんが本当に愛してるのはこの人なんだって。だからお母さんはお姉ちゃんばかりに優しくするんだって」 日奈子は ぼろぼろ 泣き始めた。
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