誰も知らない物語

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「私はお姉ちゃんと同じようにお母さんに愛されたかった。父親は違くてもお姉ちゃんの事は大好きだったし お母さんの事も大好きだった。それなのにお母さんは私にだけは一つも愛をくれなかった。悲しくて ただつらくて…… 『…じゃあ加奈子(かな)ちゃん、お母さんと一緒に死んでくれる?』 夜中襖越しにあの言葉を聞いた時は本当にショックでしかなかった。私は一緒には連れてってくれないくらいお母さんにとって私の存在は本当にどうでも良い事なんだと思い知らされたから…」 日奈子は 膝の上に置いた手を ぐっ と握った。 「だけど、お母さんを殺すつもりなんてなかった…本当よ…」 「あぁ、分かっているよ。時に誰かの言動のせいで衝動的にカッとしまう事は誰にだってあるからな」 「日奈子さん、加奈子さんの遺体はいったい何方が?」 「家族皆でよ」 李兎と昴は目を丸くして驚いた。 「お姉ちゃんを殺したのは私。お姉ちゃんを山に埋める計画をしたのは私のお父さん。お母さんはその時抜け殻状態で何も反論しなかった。私は最初自分から警察に行くと言ったけど、仕事にヒビを入れるなと強く反対されて 私も言い返せば良かったのに私自身もちょっとパニックになってて それからはもうお母さんと一緒に糸で繋がった操り人形みたいに お父さんに言われた通り お姉ちゃんを袋に入れて遠くの山に運んでスコップで穴を掘って埋めた。あの日は大雨だったから誰にも見られずにすんだ。それからお父さんに言われて 私はお姉ちゃんが誰かに発見されるまでの間 背丈も顔も瓜二つなのを利用してしばらくお姉ちゃんのフリをしてお姉ちゃんの学校に行ったり近所を歩いたりしてた。周りの人達は簡単に騙されてお姉ちゃんはまだ生きてると信じた。疑ってきた地元の警察にはお父さんが金を握らせて黙らせたって聞いた。こうして計画が成功した後 私は家に居るのが嫌になって この街で学生寮のある学校に入学してモデルとして仕事をしながら生活するようになった」 日奈子は顔を上げると静かに口元に弧を描いた。
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