コバルトブルーの瞳

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    『やめときなさいよ』と止めた財前の言葉を無視して『私ちょっと社長室覗いてくる!』と撮影スタジオを走って出てってしまった三上に やれやれ と思いながらも 気分転換がてら財前もまた撮影スタジオを出て 窓から曇天の空が見える廊下を一人腕を組んで歩いていた。 どっちにしろ 今日の自分達の撮影は延期になるだろう。もたつきながら撮影を止めてばかりいたあの新人に『やっぱり今日はここまでにしようか』と声をかけるスタッフはきっといない。と言うかやめさせるわけにはいかないのだ。何故ならあの新人を連れて来たのは世の中のほとんどの人が見た事はなくとも名前だけは聞いた事があると言われるくらいの大御所の俳優が見つけて来た子だからだ。 ……とは言え、今まで普通の高校生だった子をいきなり雑誌の表紙にするとかマジありえん…。「私なんて五年かかったのに…」 むすー… っと財前は面白くなさそうに頬を膨らませた。 「それは間違いありませんか?」 聞こえてきた男性の声に顔を上げると廊下の先の方で黒いスーツを着た 一人はイケおじと言う呼び方が似合いそうな短髪の四、五十代くらい、もう一人はパッと見 プロのモデルと嘘を言われても分からないくらい すらりと背が高い爽やかな若い(※年齢不詳)男性が二人揃って 春野のマネージャーの女性・植原(うえはら)莉嘉(りか)と何か話してる姿が見えた。 何かあったのかしら? 気になった財前は死角になる場所を探してそこにしゃがみ込むと三人の話しを盗み聞きする事にした。こう見えて案外そこらにいる探究心旺盛な普通の女子高生と中身はおんなじだから…。 「それはいつ頃からですか?」と梨木が聞いた。 「先月あたりからです。いつもはちゃんと決められた時間の、五分前には必ず来ているんですが 最近よく遅刻やドタキャンをするようになって…」 春野(はるの)さんの事だわ! 財前は思って目を大きく開いた。 一昨年、中学の卒業と同時にPQ事務所に来た春野(はるの)桃佳(ももか)は財前や三上と同い年の十八歳の女の子。 とても真面目でインタビューなどで得意な事を聞かれた時に真っ先に“勉強”とはっきり答えるのもあって、モデルの仕事では春野と似たような性格をした子をターゲットにしたフォーマルで落ち着いた服を着用する事が多い。いわゆる清楚系モデル。 正直あまり会話はした事はないためどんな感じの子かは分からないが最近その真面目ちゃんが無断で事務所をサボるようになった噂は他のモデルの子達の話し声から財前もちらっと耳にした事があった。 あの話し、本当だったんだ…。財前は盗み聞きしながら三人の会話に頷いていた。
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