プロローグ

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〈桃の花警察署・取り調べ室〉 捜査一課の刑事・萩野(はぎの)駿(しゅん)の目を見て女はにこりと微笑んだ。もう何回目になるか分からないこのやり取りに良い加減疲れてきて萩野はため息ついた。 「もう一度聞きます。先日お亡くなりになられた青野(あおの)芳佳(よしか)さんの姪の青野(あおの)冬子(ふゆこ)さんで間違いありませんね?」 萩野の直属の部下・梨木(なしき)も萩野の側の壁際に立って じっ と冬子の返答を静かに待った。 冬子はここへ連れてこられてからと言うもの はい とも いいえ とも答えず ずっと萩野を見てにこりと笑い返すばかりだった。そのため当然話しが先に進まないでいる。 取り調べを始めてかれこれ30分が経つ頃だろうか。梨木は腕時計をちらっと見て苛立ちを抑えるように小さく息を吐くと「青野さん、真面目にお答えいただけないと こんな狭苦しい場所でいつまでもむさ苦しい叔父さんと顔を見合わせ続けなくちゃなりませんよ?貴方もそろそろ疲れてきたのではないんですか?」 むさ苦しい叔父さんって何だ?ちょっとばかし爽やかな二枚目だからって好き勝手言いやがって! 萩野は梨木をじろっと睨んだ。 さすがの冬子もこれには少し可笑しくなって「確かにそうですね。嫌かも」と笑った。 「私は青野冬子で間違いありません」 ようやくまともに会話してくれるようになった冬子に少し驚いて萩野は梨木を見上げると そらみろ と言うように梨木は肩を上下にひとつ動かした。
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