ドーナッツ

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「突然押しかけて来てすまないね。キミのお父さんとお話しをしたいのだけど今どこかにお出かけ中かな?」 小さい子と同じ目線になるようにしゃがんで李兎が優しく尋ねると男の子は李兎を見てコクリと頷き返した。 「キミは一人でお留守番かね?」もう一度聞くと男の子はまたコクリと頷いた。 「そうか。一人で偉いね」 「…いつもだから慣れてるだけだよ」 「ほぉ、いつも!ならば尚更偉いじゃないか!お兄さんなら一人にされたら泣いてしまうよ。なんせ卯年なもんでね、はっはっはっ!」 「…ふふっ」男の子はつられて笑った。 「卯年って関係ないような…」昴がぼそっと呟いた。 「放っとけ。それより、玄関見ろよ」 「え?」昴は禄助の肩越しから玄関を覗いた。 「土間に靴が無い」 「今出かけてますからね」 「違う、女物の方だ。あんのは全部男物ばっか…」 「奥さんはミニマリストな方なんじゃないですか?だから余計な靴は持たないようにしてるだけ、とか…」 階段を誰かが上ってくる足音が聞こえて振り向くと グレーのトレーナーにジーパンを履いた坂城らしき男性がコンビニ袋片手に二階に姿を現した。 「あっ、パパ!」と那緒は嬉しそうに駆け寄って行くと坂城の足に ぎゅっ と両手で抱きついた。
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