ぼくだけが知ってる話し

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ぼくだけが知ってる話し

 「どうも」 仕事帰り。旧友が祖父から引き継いだ小さな本屋に入って萩野が声をかけると「孝成(たかなり)君なら居ないわよ」と奥の方から掠れた女性の声が飛んできた。 この店の店長の川島(かわしま)孝成(たかなり)とかれこれ二十年以上同棲している恋人の(たちばな)朋香(ともか)の声だ。ちなみに彼女の声が掠れてるのは健康診断の時に何度も医者から注意されてる酒の飲み過ぎのせい。孝成と一緒で萩野とは高校時代からの友人。 「なんだ居ないのか、土産を持って来たんだがな」 「私に渡しときゃ良いじゃない」 「中身は饅頭だ。お前に渡しちまったら孝成が帰って来る前に饅頭が入ってる箱がすっからかんになっちまうだろ」 「何よ その言い方。人を大食いみたいに言ってくれちゃってさ」 本当の事だろが。と萩野は思った。 「お土産渡しに来ただけ?」 「いや、この前注文しといた本を取りに来たんだ」 「あぁ、あれ あんたのだったの。ちょっと待ってて」 橘はガサゴソ箱の中を漁ると「これで間違いない?」と一冊の図鑑を見せて聞いた。
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